サイボウズとは?書籍『PLURALITY』とどう関わる?
外国の本が日本語で読めるようになるには、誰かが「この本を出そう」と決める必要があります。書籍『PLURALITY』の日本語版でその役を担ったのが、ソフトウェア会社のサイボウズです。ただし、このサイトの運営者はサイボウズ・ラボに勤めています。この記事はその関係を先に明かし、どの話が誰の資料によるのかを分けて書きます。
ひとことで言うと
サイボウズ(Cybozu)は、「キントーン」(kintone)などのグループウェアを提供する日本のソフトウェア会社です[1]。グループウェアとは、チームで情報を共有し、いっしょに仕事を進めるためのソフトウェアのことです。
サイボウズは自社の出版レーベル(本を出すときのブランド名)「サイボウズ式ブックス」を持っています。そこから 2025 年 5 月に『PLURALITY』の日本語版を出しました。本を書店に流通させる「発売」は、別の出版社のライツ社が受け持っています[2][3][4]。
このページの資料と、運営者との関係
運営者の立場。 このサイトの運営者 西尾泰和は、サイボウズ・ラボの研究者です(肩書きは主幹研究員)[5][6][7]。西尾は日本語版の出版プロジェクトのリーダーでした[5]。2024 年の鼎談(3 人での対談)の進行役[8]、社内でのいどばたの試行の環境づくり[9]、ブロードリスニングの本の書き手の一人(脚注の文責を負う)[10]でもあり、この記事の出来事の多くに当事者として関わっています。サイボウズというテーマを選んだのも西尾です。
資料の種類。
- サイボウズ自身が出したもの: PR TIMES の発表、サイボウズ式ブックスの公式ページと note、自社メディア「サイボウズ式」の記事、編集長 高部の文(発売元ライツ社の note に掲載)。
- サイボウズの出版物ではないが、社内の立場からの文: ブロードリスニングの本(デジタル民主主義2030 のコミュニティの本)の、サイボウズの事例の節。
- 運営者 西尾自身のもの: 西尾のメモのサイト(Cosense)のページと、サイボウズ式が西尾に取材した記事。
- サイボウズの外の媒体: 文化通信、ブログ YAMDAS、Tokyo Plurality Week のまとめ、六本木 蔦屋書店、COURRiER Japon、Ledge.ai、サステナブル・ブランド ジャパン、SEARCHED の入門記事。ただし、話しているのがサイボウズの人や西尾である記事もあります(文化通信はサイボウズの大槻幸夫の話、Ledge.ai は青野慶久社長への取材、サステナブル・ブランドは西尾の登壇)。蔦屋書店の告知の紹介文は、サイボウズ式ブックスの告知と同じ文です。
理念が響き合う、は誰の言い分か。 サイボウズの理念とプルラリティ(Plurality、多元性)が通じ合う、という主張は、ほぼサイボウズ自身と西尾の資料にしか出てきません。外の媒体が自分の文で両者を結びつけた例は、SEARCHED の入門記事と Ledge.ai の記事の二つです(下の「くわしく」)[3][11]。ただし Ledge.ai の記事は青野への単独取材がもとです[11]。
たとえば
日本語版の刊行(2025 年 5 月 2 日)。 サイボウズの PR TIMES の発表によれば、著者はオードリー・タン、E・グレン・ワイル、⿻ コミュニティ、翻訳は山形浩生、解説は鈴木健。発行はサイボウズ株式会社、発売は株式会社ライツ社です[2]。→ 本の版と翻訳・山形浩生・鈴木健
刊行記念の来日イベント(2025 年 5 月 11 日)。 六本木 蔦屋書店で、タンとワイルが登壇し竹下隆一郎が司会するトークイベントが開かれました[12][13]。COURRiER Japon はこれを「サイボウズ式ブックス『PLURALITY』刊行記念イベント」として報じています[14][15]。→ オードリー・タン・グレン・ワイル
社内でのいどばたの試行(2025 年 8 月)。 いどばたは、AI とやり取りして意見を集め、論点にまとめる道具です。サイボウズ式の記事によれば、約 50 人の社員が「社内でのAI利用推進」をテーマに 5 分間書き込み、AI が論点を 6 つ取り出しました。サイボウズ用の環境は、開発者の青山柊太朗と西尾が作りました[9]。→ いどばた・ブロードリスニング
くわしく
出版レーベルの成り立ち
文化通信によれば、サイボウズは 2019 年、ライツ社と提携してビジネス書のレーベル「サイボウズ式ブックス」を始めました[1]。同紙は当時のプロジェクトリーダー大槻幸夫の話として、自社の宣伝ばかりの従来型の企業出版ではなく、企業理念「チームワークあふれる社会をつくる」を広め、実現するための参入だと伝えます。大槻は「当社は企業理念の実現が目的だ」と語っています[16]。
日本語版が生まれたいきさつ(三つの証言)
同じ出来事を、三つの立場が語っています。
- 西尾本人(サイボウズ式の取材): 2023 年の「PLURALITY TOKYO 2023」でこの考え方を知り、英語版の執筆が GitHub(公開で共同編集できるサイト)で進んでいると知って日本語の機械翻訳を作り始めた。社内の発表会で話したことが、サイボウズ式ブックスのチームに伝わった[5]。→ 西尾泰和
- 編集を担当した高部(サイボウズ式ブックスの編集長、ライツ社の note): 社内のグループウェアに流れた投稿で「PLURALITY」という見慣れない言葉を見たのが始まりだった。2023 年当時は英語版もまだ出ていなかった[17]。
- Ledge.ai の記事: 出版は青野社長が直接主導したものではない。日本語訳に加わった西尾の動きを知ったサイボウズ式ブックスのチームが、出版を提案した[11]。
刊行の前後
2024 年 7 月 26 日、タン、ワイル、関治之がサイボウズを訪れました(西尾のメモ)[18]。その鼎談の記事は 2024 年 10 月 3 日にサイボウズ式に載り、進行役は西尾でした。記事の冒頭は、サイボウズ式ブックスが 2 人の考えを広めるために日本語訳を進めている、と書きます[8]。→ 関治之
刊行に合わせて、日本語版に特別に収めた 2 人の文「日本語版刊行に寄せて」を、サイボウズ式が 2 回に分けて先に公開しました[19][20]。5 月 11 日の蔦屋書店のイベントは、デジタル民主主義研究ユニットのまとめ「Tokyo Plurality Week」にも載っています[21]。同じ日にはサイボウズ社内でタン、ワイル、青野の鼎談も開かれ[22][23]、その 3 人の鼎談記事が 2025 年 7 月 8 日にサイボウズ式に載りました[24]。
サイボウズは自社の理念をどう結びつけているか
以下は、どれもサイボウズ側か西尾の言い方です。
- サイボウズ式ブックスの公式ページと PR TIMES の発表は、サイボウズのパーパス(会社の存在意義)「チームワークあふれる社会を創る」を説明し、この理念は「プルラリティが描く世界観と深く共鳴するものです」と書きます[25][2]。
- 青野は X(旧 Twitter)の投稿で、グループウェアの事業で目指すのは「組織におけるプルラリティ」だと言える、と書きました(西尾のメモが引用)[26]。
- 青野は Ledge.ai の取材で、自分の X が炎上した経験から、本を読んで、問題は情報を見せる仕組み(アルゴリズム)だと考えた、と述べました[11]。
- 西尾は 2023 年 4 月 11 日の X の投稿で、「100人100通りの働き方」を後押ししてきたサイボウズにとって、Plurality の考え方は関心のまさに中心にある気がする、と書きました[27]。2025 年の取材では、人事制度「100人100通りのマッチング」を kintone などで支えている点で「プルラリティの成功事例といえます」と語りました[5]。
- ブロードリスニングの本の、サイボウズの事例の節(社内の立場から書かれたもの)は、いどばたのワークショップの背景に Plurality がある、と書きます[28]。
外の媒体では、SEARCHED の入門記事が、サイボウズは「百人百通りの働き方」を組織でのプルラリティの実践と位置づけている、と書き、この働き方を「プルラリティ的な人事観」の例にも挙げます[3]。Ledge.ai も自分の文で、サイボウズのグループウェアが多様な意見を整理・共有する役割を担うと書き、「質問責任」などの社内文化を、書籍『PLURALITY』を経営に取り入れた例として紹介します[11]。
どこが議論になっているか
- 出版社はサイボウズなのか、ライツ社なのか。 ブログ YAMDAS は、書名に「サイボウズ式ブックス」とあるのに出版社はライツ社なので、サイボウズが出版社をやっているわけではないということか、と書きました[4]。発表の書誌は、発行をサイボウズ株式会社、発売を株式会社ライツ社としています[2]。文化通信は、レーベルをライツ社との提携と書いています[1]。
- 5 月 11 日のイベントの主催はどこか。 サイボウズ式ブックスの告知、PR TIMES の発表、Tokyo Plurality Week のまとめは、主催をサイボウズ式ブックスとしています[29][2][21]。一方、六本木 蔦屋書店のアーカイブ動画の販売ページには「主催::六本木 蔦屋書店」という行があります。ただしこの行はアーカイブ配信の申込期間・視聴期限・「場所::オンライン」と並ぶ項目で、当日の催しの主催を書いたものかははっきりしません[13]。
- 台湾の同性婚に vTaiwan は使われたのか。 Ledge.ai の記事は、台湾の同性婚の法制化で vTaiwan(Polis)が使われた、と自分の文で書きます[11]。しかし書籍『Plurality』の 2-2 章は同じいきさつを、2018 年の国民投票の否決のあと、政府が親族を手続きから外す法案を通した、と書き、その段落で vTaiwan にも Polis にも触れていません[30]。記事の中の青野の言葉は、特別法を作った点だけを言っています[11]。→ vTaiwan・Polis
- 英語版と日本語版の年を混ぜない。 サステナブル・ブランドの記事が、2024 年 5 月に共著本が出版されたと書くのは、英語版の刊行のことです[6]。日本語版は 2025 年 5 月 2 日の刊行です[2]。ブログ YAMDAS によれば、Amazon の当初のページでは発売日が 2024 年 12 月 31 日になっていました[4]。
Plurality の中での位置
本はサイボウズを論じていません。 英語版・繁体中文版の本文で、サイボウズの名が出るのは前付けの推薦文だけです。日本語版の公開の原稿(推薦文は入っていない)にも、サイボウズの名は出てきません。英語版の推薦文は青野を Cybozu の "Co-Founder and CEO"(共同創業者で最高経営責任者)と紹介しています[31]。繁体中文版も同じ紹介です[32]。→ 本の前付け
本の 6-3 章「メディア」は、Microsoft や Slack などが企業に生産性ソフトウェア(仕事を効率よく進めるためのソフトウェア)を売るビジネスモデルを、プロソーシャル・メディア(人のつながりを良くする方向のメディア)が育ちうる場の例に挙げています[33]。西尾は 2023 年の社内向けの資料でこの段落を引き、タンが生産性向上ソフトウェアと呼ぶものは、サイボウズがグループウェアと呼んできたものだ、と書きました[34]。本の例の中にサイボウズの名はありません。→ 6-3 メディア
日本での受け止められ方は 日本での Plurality、出来事の並びは 日本の年表 へ。
もっと知りたい人へ
- PR TIMES「『PLURALITY』日本語版が、サイボウズ式ブックスから遂に刊行!」(2025-05-02、日本語・発表文、サイボウズ自身の資料)— https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000101800.html
- Ledge.ai「サイボウズ青野社長が語る『PLURALITY』の実践と、多元的協働社会への道筋」(2026-01-22、日本語・取材記事、話者は青野)— https://ledge.ai/articles/interview_cybozu
- 書籍『Plurality』の推薦文(英語・本)— https://github.com/pluralitybook/plurality/blob/main/contents/english/0-0-endorsements.md
- サイボウズ式「新概念「Plurality」を解く」タン×ワイル×関治之(2024-10-03、日本語・鼎談記事、サイボウズ自身の資料)— https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m006211.html
- サイボウズ式「いちばんやさしいプルラリティ解説」(2025-08-26、日本語・取材記事、話者は西尾)— https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m006279.html
- 文化通信「サイボウズ・大槻幸夫氏に聞く」(2019、日本語・取材記事)— https://www.bunkanews.jp/article/210286/
出典
- 文化通信「サイボウズ式ブックス」立ち上げの記事(2019)— https://www.bunkanews.jp/article/208340/
- PR TIMES「『PLURALITY』日本語版が、サイボウズ式ブックスから遂に刊行!」(2025-05-02)— https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000101800.html
- SEARCHED の入門記事(note)— https://note.com/searched/n/n74f0ac9aec97
- ブログ YAMDAS(2024-07-24)— https://yamdas.hatenablog.com/entry/20240724/plurality-japanese
- サイボウズ式「いちばんやさしいプルラリティ解説」(2025-08-26)— https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m006279.html
- サステナブル・ブランド ジャパンの記事(1308413)— https://www.sustainablebrands.jp/news/1308413/
- サステナブル・ブランド ジャパンの記事(1308740)— https://www.sustainablebrands.jp/news/1308740/
- サイボウズ式「新概念「Plurality」を解く」タン×ワイル×関治之(2024-10-03)— https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m006211.html
- サイボウズ式「「社員の本音」を5分で可視化」(2025-12-04)— https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m006299.html
- ブロードリスニング本 序文(脚注の文責)— https://github.com/digitaldemocracy2030/broad-listening-book/blob/f69c60c838a91b91668abf109d7093b240610139/00_%E5%BA%8F%E6%96%87.md [CC BY-NC 4.0]
- Ledge.ai「サイボウズ青野社長が語る『PLURALITY』の実践と、多元的協働社会への道筋」(2026-01-22)— https://ledge.ai/articles/interview_cybozu
- 六本木 蔦屋書店 イベント告知(2025-05-11)— https://store.tsite.jp/roppongi/event/shop/46785-1840510414.html
- 六本木 蔦屋書店 アーカイブ動画の販売ページ — https://store.tsite.jp/roppongi/event/business/47428-2051010520.html
- COURRiER Japon 5/11 イベント報告(1)— https://courrier.jp/news/archives/402603/
- COURRiER Japon 5/11 イベント報告(2)— https://courrier.jp/news/archives/402749/
- 文化通信「サイボウズ・大槻幸夫氏に聞く」(2019)— https://www.bunkanews.jp/article/210286/
- ライツ社 note(高部「本書は、どのようにして生まれたのか。」の節)— https://note.com/wrl/n/n8cabc8f91dc2
- 西尾泰和「Audrey+Glen+Halsk@Cybozu」(Cosense)— https://scrapbox.io/nishio/Audrey%2BGlen%2BHalsk%40Cybozu
- サイボウズ式 ワイル「日本語版刊行に寄せて」の先行公開 — https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m006261.html
- サイボウズ式 タン「日本語版刊行に寄せて」の先行公開 — https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m006262.html
- デジタル民主主義研究ユニット「Tokyo Plurality Week」まとめ(note)— https://note.com/digitaldemocracy/n/n4c91cddef564
- 西尾泰和「Audrey+Glen+青野鼎談@サイボウズ」(Cosense)— https://scrapbox.io/nishio/Audrey%2BGlen%2B%E9%9D%92%E9%87%8E%E9%BC%8E%E8%AB%87%40%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%9C%E3%82%A6%E3%82%BA
- タン・ワイル・青野の鼎談の動画(2025-05-11)— https://www.youtube.com/watch?v=OGMZQa4IT00
- サイボウズ式「人の心は「炎上」でしか動かせないのか?」タン×ワイル×青野(2025-07-08)— https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m006269.html
- サイボウズ式ブックス『PLURALITY』公式ページ — https://cybozushiki.cybozu.co.jp/books/plurality/
- 西尾泰和「「PLURALITY」日本語版」(Cosense)— https://scrapbox.io/nishio/%E3%80%8CPLURALITY%E3%80%8D%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E7%89%88
- 西尾泰和「Pluralityとサイボウズの初出」(Cosense)— https://scrapbox.io/nishio/Plurality%E3%81%A8%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%9C%E3%82%A6%E3%82%BA%E3%81%AE%E5%88%9D%E5%87%BA
- ブロードリスニング本 9.2「サイボウズの取り組み」— https://github.com/digitaldemocracy2030/broad-listening-book/blob/f69c60c838a91b91668abf109d7093b240610139/09_02_%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%9C%E3%82%A6%E3%82%BA.md [CC BY-NC 4.0]
- サイボウズ式ブックス 5/11 イベントの告知(note)— https://note.com/cybozushikibooks/n/n475142b2ec48
- 『Plurality』2-2「The Life of a Digital Democracy」— https://www.plurality.net/v/chapters/2-2/eng/ [CC0]
- 『Plurality』0-0「Endorsements」(英語版)— https://github.com/pluralitybook/plurality/blob/main/contents/english/0-0-endorsements.md [CC0]
- 『Plurality』0-0「名家推薦」(繁体中文版)— https://github.com/pluralitybook/plurality/tree/main/contents/traditional-mandarin [CC0]
- 『Plurality』6-3「Media」— https://www.plurality.net/v/chapters/6-3/eng/ [CC0]
- 西尾泰和「Pluralityとサイボウズ(2023)」(Cosense、社内向け資料の公開版)— https://scrapbox.io/nishio/Plurality%E3%81%A8%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%9C%E3%82%A6%E3%82%BA%282023%29
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