「体験過程と意味の創造」勉強会1を発表資料を切り刻むの考察を元に切り刻んだ
「体験過程と意味の創造」勉強会
- 2021-12-10
- 今回の目的
- 「まだ言葉になっていないモヤモヤ」が認知においてどのような働きをするのか、を整理した「体験過程と意味の創造」第3章まで前提知識をなるべく要求しない道を引く
- 今回原著を買うまで副題の「主観的なものへの哲学的・心理学的なアプローチ」を知らなかったが、よい副題だと思う
ユージンジェンドリン
- 「体験過程と意味の創造」の著者
- Eugene Gendlin - Wikipedia
- Eugene T. Gendlin (1926 – 2017)
- アメリカの哲学者
- 臨床心理学者カールロジャーズの元で学んだ後、哲学の博士号を受けた(1958, シカゴ大学)
- 1962 体験過程と意味の創造
- 後に心理療法の手法[Focusing]と、一般的な思考法[Thinking At the Edge]を生み出した
- Eugene T. Gendlin (1926 – 2017)
カールロジャーズ
- Carl Rogers - Wikipedia
- 1902 - 1987
- シカゴ大学の心理学の教授(1945–57)
- クライエント中心療法の創始者
- “Client-Centered Therapy” (1951)
-
1982年にアメリカとカナダの心理学者422人を対象に行った調査では、歴史上最も影響力のある心理療法家とされた(フロイトは3位)
- のちにPerson-centered therapy - WikipediaやPerson-centered Approach、人間中心アプローチ、と呼ばれるようになる
- デザインにおける人間中心設計とか、教育学における学習者中心とかとの関連は今回は深追いしない
- 時代としてはアブラハム・マズロー(1908-70)と同じぐらい
体験過程とは?
- 「体験過程と意味の創造」
- カールロジャーズが心理療法をやる上で実践的に使っていた概念を、ユージンジェンドリンが整理した
- 和訳が堅いが、英語はExperiencing
「感じられた意味」
- これが本書のメインテーマ
- 第I章 経験された意味の問題
- 今ここ
- 第II章 認知において感じられた意味が働く実例
- 第III章 感じられた意味の働き方
- 今回の勉強会の目的地
- 第I章 経験された意味の問題
- 第I章 経験された意味の問題 > 2.心理学における問題 > c.経験の分節化
- (西尾による訳) 概念化や表現と、経験や感情は別物である。経験や感情は、概念化や表現とは離れた意味を持っている。これを「感じられた意味」と呼んでいる。概念化や表現は、その「感じられた意味」に対して適切であるかもしれないし、適切でないかもしれない。この概念化や表現、別の言い方をすれば「シンボルによる構造化」と「感じられた意味」との間にはどのような関係があるか?さまざまなものがある。この本の先の章では、これらの関係を精査することによって、「感じられた意味」が認知において持っている機能を詳しく見ていこうと思う。
認知において必要な機能
- 「第II章 認知において感じられた意味が働く実例」はいろいろな実例を挙げている章で、それをここでなぞっても「紙に書かれた実例の羅列を口頭で劣化コピーするだけ」になりそうだから飛ばす
- 後半のB. が重要な概念のハブになってるのでそこだけ紹介
平行的な機能的関係
-
「平行的な」とは「感じられた意味とシンボルが1対1で対応する」と定義されてるが、今はざっくり「シンプルなパターン」って理解でよいと思う。ここで定義の議論をするより後半の「非平行的な」例を見た後の方がわかりやすい 直接照合
-
再認(RECOGNITION)
- シンボルだけが先にあるような状態
- 例えば本に書かれた単語を読む
- そこから意味が呼び起こされ、感じられる
- シンボルは我々の心の中に「感じられた意味」を呼び起こす働きをする
-
解明(EXPLICATION)
- ここまでの二つはシンボルが先に提示された
- EXPLICATIONは「感じられた意味」が「シンボル」になる動き
- 感じたことを言葉で説明したいが、まだ言葉が見つかっていない、という状況
- これを解決する
- (注: もちろん言語的シンボルに限らないが、シンプルに説明するために言語的シンボルの例にしている)
- 再認はシンボルが感じられた意味を呼び起こしてる
- 解明は感じられた意味がシンボルを呼び起こしてる
- 再認で「シンボルを見て感じられた意味が記憶の中から思い起こされた」のと同じように、解明では「感じられた意味にマッチするシンボルが記憶の中から選び出された」ということ
- 注: ここではシンプルな「平行的な」関係の話をしてるので、既存の言葉ですんなり説明できたケースを扱ってる、そうでないケースが後半にある
- 図解してみた
- ここまでの二つはシンボルが先に提示された
-
ここから先は余談なので時間がなければ飛ばす 直接照合を繰り返して解明が行われた
直接照合→一部にマッチ→分節化 直接照合の結果に3パターンある
創造的な機能的関係
- やっと本題!
- 隠喩 (METAPHOR)
- 理解 (COMPREHENSION)
- 関連 (RELEVANCE)
- 言い回し(CIRCUMLOCUTION)
- 「平行的なシンボルを持たない感じられた意味」(要するに表現するのにちょうどいい言葉がないような経験)がある状態
隠喩(METAPHOR)
- ユージン・ジェンドリンのメタファー概念
- 隠喩と訳されてるが、隠喩か直喩かに関係ない議論をする
- 「たとえること」と思った方がいい
- ここでは英語のまま「メタファー」と呼ぶ
- 厳密には「たとえること」や「メタファー」に代表されるような「既存のシンボルで新しい意味を作り出すこと」をまとめて「メタファー」と呼んでる
- 例
- 「私の恋人はまるでバラのようだ」
- 「時は金なり」
- 時を貯金できるわけではない
- 「公開鍵暗号は南京錠のようなもの」
- 施錠する時に「開錠する時に必要な鍵」が必要ないということを言ってる
- 「南京錠を所有する1名だけが施錠できる」と言いたいわけではない
- どの例でもシンボルを、その本来の意味と違う使い方で使っている
- 現存するシンボルで感じられた意味を正確に表現できない状況
- なので通常繋がらないシンボルに新しい結合を作って表現する
- 複数のシンボルで表現されるけどもandやorではない 隠喩における再認と直接照合の役割
理解(COMPREHENSION)
- これ「理解」って訳語がついてるけど、次の節でunderstandingに関する話をすごくするので、同じ訳語を使うのは混乱の元だと思う。
- 僕も混乱した
- 「理解」というよりはこっちのニュアンス
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- (これは非平行的なシンボルの使い方の例であり、文字通りの「完全に理解した」という意味ではない)
-
- 以下で口頭では「COMPREHENSION」と呼ぶようにしようと思う
To invent a metaphor to express a prior felt meaning is “comprehension.” 例 メタファーの例 >理解の過程において,所与の感じられた意味は直接に照合されていて,多くの種類の関係ありそうなシンボルを選び出す(p.150)
- バッチリ言葉にできたら、より豊か
- 表現するとは自覚すること
-
「語る主体にとって、表現するとは自覚することである。彼は単に他人たちのために表現するのではない。自分がねらっているものを、自分自身で知るために表現するのである」(メルロ=ポンティ、高橋(訳)、現象学の課題) METAPHORとCOMPREHENSIONの関係
関連(RELEVANCE)
- ここまでで一つの感じられた意味と「それについての」一つの以上のシンボル化との間の関係を定義した
- しかし、その「一つの感じられた意味」をシンボル化したものではないシンボルが理解を促すケースがある
- 関連とは「シンボル化がそれによって理解可能になるような、そういう関連のある感じられた意味」
-
relevant felt meanings, from out of which symbolization is understandable
- この「理解」にはunderstandが使われていて、COMPREHENSIONの訳語の「理解」とは別物
-
- 日常会話ではこんなことを言う
-
理解するためには“過去の経験”が必要だ
-
”文脈“を理解しなければならない
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-
一組のシンボルは,そのシンボルが表す一つの感じられた意味だけではなくて, その他多くの経験された意味の助けによって理解されるようになるのです(p.158)
- RELEVANCEの意味のわからない記述
- 例「ある初心者がある格言を学ぶ。20年以上もの経験の後で、その格言の意味をもっと違った、もっと完全な形で理解した、しかしそれを弟子に教えようとしたら20年前に学んだ最初の言葉以上にその意味をうまく表す表現(=シンボル化)が見つからない」
- 数学書でよくあるやつだな
- 最初にある数学的概念の定義を見たときにはサッパリ意味がわからない
- 色々な例や解説を読んで「なるほどわかった、こういうことだな」と思う
- 「そう書けばいいのに」と思いながら定義をもう一回みたら、まさにその通りのことが書いてあった
- 数学書でよくあるやつだな
- RELEVANCEはシンボル化の一種
- よくわからない
- 二つの視点
- METAPHOR/COMPREHENSIONもRELEVANCEだ、と言ってしまうことは一応可能
- でもそうやるのじゃなくて2つの視点として捉える方が良い、とユージンジェンドリンは主張している(p.159)
- 絵に描いてみた
- Q: mとmeaningの違いは?
- A: 単に省略しただけ
- ver.2 意味が関係を決めるか関係が意味を決めるか 言い回し(CIRCUMLOCUTION)
- Q: mとmeaningの違いは?
- CIRCUMLOCUTIONという単語のチョイスで少しノイズが入った上に訳語として「言い回し」をチョイスしたのでわかりにくくなってると思う
- 大前提: 言語的シンボルに限定した話はしてない
- CIRCUMLOCUTION
- A roundabout or indirect way of speaking; thus:
- Unnecessary use of extra words to express an idea, such as a pleonastic phrase (sometimes driven by an attempt at emphatic clarity) or a wordy substitution (the latter driven by euphemistic intent, pedagogic intent, or sometimes loquaciousness alone).
- Necessary use of a phrase to circumvent either a vocabulary fault (of speaker or listener) or a lexical gap, either monolingually or in translation.
- A technical word, such as hyperkalemia or hypoallergenic, can be glossed for general audiences with a circumlocution, such as “high potassium level” or “less likely to cause allergies” (respectively).
- 後者の例が近いかな
- 伝えたいことを「hyperkalemia」というシンボルで表現したが、伝わらないかもしれないので改めて同じことを「high potassium level」と表現している(日本語だと「高カリウム血症」である←これもCIRCUMLOCUTIONの実例)
- 同じように、何かを伝えたくて話したり図やジェスチャーを使ったりして、さらに同じことを違う表現をしたりする
-
- これもCIRCUMLOCUTIONの実例
- これは「言い回し」っていうより「言い換え」じゃないかなぁ
- A roundabout or indirect way of speaking; thus:
- いま「同じことを」「違う表現で」と説明したうちの、前半の「同じことを」を「関連することを」に変換したものがCIRCUMLOCUTION
- 「同じことを」はもちろん包含される
- この資料のように関連することをいくつもつなげているのはCIRCUMLOCUTIONが発生している
- それによって「伝えたかったこと」がはっきりしていく
- =感じられた意味を創造的に形成・修正している
- さっきの「二つの視点」の図
- 関連を増やすことによって意味を修正している
- (これも実例)
- 例「電話を買い替えたんだ〜、あ、持ち運ばないやつの話」
- 「電話」で携帯電話をイメージしてたとしても修正される
- これも実例
- RELEVANCEとCIRCUMLOCUTIONの関連
- CIRCUMLOCUTIONは経験された意味の間のRELEVANCEの創造
- RELEVANCEは感じられた意味が既に存在しているものと仮定する
創造的な機能的関係まとめ クリーンランゲージ:シンボルの解釈を保留する
- 時間に余裕があれば使おうと思った資料
- ないので使わない