Plurality の地図

チェコでの Plurality の広がりってなに?

チェコでは書籍『Plurality』の訳は見つからず、本やワイルの報道もほとんどありません。目立つのは、2020 年の上院議長の訪台から続く台湾との往来です。タンは主に、その中の偽情報対策の相手として語られています。

遠く離れた二つの国が、偽のニュースへの備えを教え合う。そんな関係が、中欧のチェコと台湾の間で育ってきました。オードリー・タン(Audrey Tang)の名前は、チェコでは主にこの文脈で出てきます。一方、タンとグレン・ワイル(E. Glen Weyl)の書籍『Plurality』そのものは、チェコではまだほとんど読まれていないようです。

ひとことで言うと

この記事のための調査では、『Plurality』のチェコ語訳は見つかりませんでした。本やワイルを取り上げたチェコ語の報道も、ほとんど見つかっていません[1][2]。

目立つのは、2020 年に上院議長が台湾を訪れてから続く、台湾との往来です。タンは主に、その中で偽情報への対策を話し合う相手として語られています[5][6]。

たとえば

上院議長の訪台(2020 年)。 cs 版 Wikipedia によると、2020 年 9 月、上院議長 Miloš Vystrčil が率いる一行が台湾を訪れ、プラハ市長の Zdeněk Hřib も加わりました。中国の王毅外相は、この訪問を「zradu」(裏切り)と呼びました[3]。

タンは後の対話で、議長が台湾の立法院で「我是臺灣人, I am a Taiwanese」(私は台湾人です)と述べたことに触れています。そして、この訪問などのために、感染症の隔離のしくみを人と一緒に動かせる「traveling bubble」を使えるようにした、と話しました[4]。

下院議長の訪台(2023 年)。 下院議長の Markéta Pekarová Adamová はインタビューで、訪台中に偽情報のことを「nejvíce asi」(おそらくいちばん多く)話した相手として、外交部長の Joseph Wu と「ministryní pro digitalizaci Audrey Tang」(デジタル担当大臣のオードリー・タン)を挙げました。話題は主に、ウクライナへの侵攻に関わる偽の報道でした。チェコの国家サイバー・情報セキュリティ庁(NÚKIB)と、台湾のデジタル発展部の協力を始めた、とも述べています[5]。

プラハのシンクタンクとの会合(2022 年 1 月 4 日)。 プラハの European Values Center for Security Policy(EVC)の Jakub Janda は、タンとの会合で、招へいの計画を話しました。中東欧の偽情報の専門家を数か月ずつ台北に送り、台湾の専門家をプラハやヴィリニュスに招く、というものです[6]。

くわしく

本と訳

チェコの総合目録 SKC で見つかった『Plurality』は、英語原書(2024 年)の 1 点だけで、カレル大学哲学部の図書館の所蔵でした(このサイトによる 2026 年 10 月の暫定の数え)。ワイルとエリック・ポズナーの前著『Radical Markets』も、英語原書(2018 年・2019 年)だけです。国立図書館の目録(NKC)では、両書とも見つかりませんでした[1]。

本の元の置き場(GitHub)を複製した 160 件に、チェコ語の訳の置き場はありません(このサイトによる 2026 年 10 月の暫定の数え)。本の公式サイト plurality.net の言語の一覧にも、チェコ語はありません[2]。チェコ語の Google News でも、「Glen Weyl」「Radical Markets」は 0 件でした。

目録にはほかに、プラハのカレル大学の経済研究・大学院教育センター(CERGE-EI)から 2014 年に出た、Michal Fabinger とワイルの共著のワーキングペーパーがあります[1]。→ 本の版と翻訳

台湾との往来

cs 版 Wikipedia によると、プラハと台北は 2020 年 1 月にパートナー都市の協定を結びました[3]。その前年の 2019 年、タンは Duncan Hewitt との対話で、Hřib を指して(「this is Zdeněk Hřib」)、「the Prague pirate」(プラハの海賊)と呼びました。Hřib は海賊党の政治家です。Hřib の一行はタンの執務室にある Social Innovation Lab を訪れ、タンは「We shared with each other this way of listening and skill with constituents.」(住民の声を聞くやり方と技を、互いに分かち合った)と話しています[7]。

2020 年の上院議長の訪台について、チェコにある中国大使館は、「hrubé porušení národní suverenity Číny」(中国の国家主権の重大な侵害)とする声明を出しました。Vystrčil は、チェコは中国との間で、独自の「一つの中国」の政策を持つ権利を取り決めている、と反論していました。当時、チェコ国内でも、Babiš 首相や Zeman 大統領が訪問に反対していました(e15 の報道)[8]。

Vystrčil は 2026 年 6 月に 2 回目の訪台をしました。ČT24 によると、北京は再び強く非難しました。Babiš 首相も、中国との貿易のつながりと関係を損なうとして、訪問を公然と批判しています[9]。

偽情報対策

2022 年の会合で、Janda は、中欧の多くの政府は偽情報への対応が比較的遅く、官僚的だと述べました。タンは「It's mostly about the tempo, right?」(要するに速さの問題ですね)と応じています。タンは協力の形を、「a community of practice … on disinformation defense education」(偽情報から身を守る教育の、実践の共同体)と言い直しました[6]。

2020 年には、タンは別の対話で、チェコの Masks4All の運動を取り上げました。マスクの出どころを問わず、古い T シャツでも何でもよいとしたので、「I think」と添えたうえで「largely succeeded」(おおむね成功した)と評しています[10]。

チェコ語の報道でタンの発言として伝えられたのは、たとえば、台湾の政府機関が通常の 23 倍のサイバー攻撃を記録した、という話です(ČTK の配信、iROZHLAS 2022 年 8 月 3 日)[11]。

Community Notes と bridging

利用者どうしで投稿に注記をつける Community Notes は、チェコでは主に、Meta が外部のファクトチェック(事実確認)をやめて移る話として報じられました。

Meta と組んでチェコ語の投稿を確かめてきたプロジェクト Demagog.cz の Petr Gongala は、iROZHLAS に、(まず米国での)この移行は「krok zpátky」(後退)だと述べました[12][13]。そのうえで、Community Notes は「v něčem demokratičtější」(ある点ではより民主的)だと言われることは認めています。政治的な意見の内容には向くが、明らかな偽情報やディープフェイク(AI で作った偽の動画など)には、コミュニティの対応がしばしば遅れる、とも語りました[12]。→ コミュニティノート

HlídacíPes の論説(2026 年 6 月、Milan Čech)は、「Tchajwanský model」(台湾の型)として、propojovací algoritmy(Bridging Algorithms、つなぐアルゴリズム)を挙げました。対立する陣営をまたいで支持を得た意見だけを目立たせるしくみです。論説はあわせて、公共のデジタル空間の脱匿名化も求めています。これは論者自身の提案で、『Plurality』の本とは結びつけられていません[14]。→ ブリッジング

市民テックと参加型予算

チェコには、2013 年に始まった反汚職の NGO の Rekonstrukce státu があり、のちに国のデジタル化の取り組みにも加わっています[15]。IT のボランティアがデジタルの事業を手伝う団体 Česko.Digital もあります[16]。→ シビックテック

cs 版 Wikipedia によると、住民が予算の使い道を投票で決める参加型予算は、2012〜14 年に Nelahozeves・Příbor など四つの自治体で始まりました[17]。プラハ 1 区は 2025 年に初めて実施し、450 万コルナの枠に 504 人の住民が投票しました。1 人に賛成 4 票・反対 2 票を与える方式でした[18]。ただし、これらとタンや本を結びつけた資料は、今回は見つかりませんでした。

どこが議論になっているか

Plurality の中での位置

チェコの資料で語られるのは、本の理論ではなく、台湾の実践の一部です。中心は偽情報対策で、台湾のデジタル民主主義・コミュニティノート・ブリッジング がかかわります。

登場する人物は、ほぼ オードリー・タン だけです。グレン・ワイル は、チェコ語の報道には見当たりません。チェコでの広がりは、本を読むことからではなく、台湾との政治的な往来から始まっている、と言えます。

ほかの国・地域の記事:

もっと知りたい人へ

  1. cs 版 Wikipedia「Česko-tchajwanské vztahy」(チェコ語・事典)— https://cs.wikipedia.org/wiki/%C4%8Cesko-tchajwansk%C3%A9_vztahy
  2. タンと EVC の会合(英語・書き起こし、CC0)— https://github.com/audreyt/transcript/blob/main/2022-01-04-Meeting-with-EVC.md
  3. Pekarová Adamová のインタビュー(チェコ語・記事)— https://www.top09.cz/co-delame/medialni-vystupy/pred-cestou-na-tchaj-wan-jsem-celila-nekolika-cinskym-kyberutokum-rika-adamova-30614.html
  4. iROZHLAS「Meta přechází od factcheckingu ke Community Notes」(チェコ語・記事)— https://www.irozhlas.cz/veda-technologie/technologie/meta-prechazi-od-factcheckingu-ke-community-notes-je-krok-zpatky-varuje_2501072034_edr
  5. HlídacíPes「Demokracie 2.0」(チェコ語・論説)— https://hlidacipes.org/demokracie-2-0-vize-systemove-zmeny-a-pravidla-budoucnosti/

出典

  1. チェコ国立図書館(NKP)の目録 NKC・SKC での照会(2026-10-02)— https://aleph.nkp.cz/F/?func=find-b&find_code=WRD&local_base=SKC&request=Weyl%20Glen [CC0]
  2. pluralitybook/plurality の fork 一覧 — https://github.com/pluralitybook/plurality/forks [CC0]
  3. cs 版 Wikipedia「Česko-tchajwanské vztahy」— https://cs.wikipedia.org/wiki/%C4%8Cesko-tchajwansk%C3%A9_vztahy [CC BY-SA 4.0]
  4. 2020-11-03 Interview with Kate O'Flaherty(書き起こし)— https://github.com/audreyt/transcript/blob/main/2020-11-03-Interview-with-Kate-O’Flaherty.md [CC0]
  5. TOP 09「Před cestou na Tchaj-wan jsem čelila několika čínským kyberútokům, říká Adamová」(2023-04、Aktuálně.cz のインタビューの転載)— https://www.top09.cz/co-delame/medialni-vystupy/pred-cestou-na-tchaj-wan-jsem-celila-nekolika-cinskym-kyberutokum-rika-adamova-30614.html
  6. 2022-01-04 Meeting with EVC(書き起こし)— https://github.com/audreyt/transcript/blob/main/2022-01-04-Meeting-with-EVC.md [CC0]
  7. 2019-12-10 Duncan Hewitt visits(書き起こし)— https://github.com/audreyt/transcript/blob/main/2019-12-10-Duncan-Hewitt-visits.md [CC0]
  8. e15「Vystrčil porušil cestou na Tchaj-wan suverenitu Číny, vzkázalo čínské velvyslanectví v Česku」(2020-09-05、ČTK)— https://www.e15.cz/domaci/vystrcil-porusil-cestou-na-tchaj-wan-suverenitu-ciny-vzkazalo-cinske-velvyslanectvi-v-cesku-1372999
  9. ČT24「Čína nemůže Česku určovat, s kým se přátelit, řekl Vystrčil na Tchaj-wanu」(2026-06-01、ČTK)— https://ct24.ceskatelevize.cz/clanek/domaci/vystrcil-dorazil-s-delegaci-na-tchaj-wan-setka-se-s-tamnimi-predstaviteli-374089
  10. 2020-06-16 Nick Aspinwall visits(書き起こし)— https://github.com/audreyt/transcript/blob/main/2020-06-16-Nick-Aspinwall-visits.md [CC0]
  11. iROZHLAS「Tchaj-wan očekává intenzivnější čínský nátlak, čelí dezinformacím i kybernetickým útokům」(2022-08-03、ČTK)— https://www.irozhlas.cz/zpravy-svet/tchaj-wan-taiwan-cina-natlak-dezinformace-utoky_2208031737_har
  12. iROZHLAS「Meta přechází od factcheckingu ke Community Notes. ‚Je to krok zpátky,' varuje koordinátor Demagogu」(2025-01-07)— https://www.irozhlas.cz/veda-technologie/technologie/meta-prechazi-od-factcheckingu-ke-community-notes-je-krok-zpatky-varuje_2501072034_edr
  13. cs 版 Wikipedia「Demagog.cz」— https://cs.wikipedia.org/wiki/Demagog.cz [CC BY-SA 4.0]
  14. Milan Čech「Demokracie 2.0: Vize, systémové změny a pravidla budoucnosti」(HlídacíPes、2026-06-17)— https://hlidacipes.org/demokracie-2-0-vize-systemove-zmeny-a-pravidla-budoucnosti/
  15. cs 版 Wikipedia「Rekonstrukce státu」— https://cs.wikipedia.org/wiki/Rekonstrukce_st%C3%A1tu [CC BY-SA 4.0]
  16. cs 版 Wikipedia「Česko.Digital」— https://cs.wikipedia.org/wiki/%C4%8Cesko.Digital [CC BY-SA 4.0]
  17. cs 版 Wikipedia「Participativní rozpočtování」— https://cs.wikipedia.org/wiki/Participativn%C3%AD_rozpo%C4%8Dtov%C3%A1n%C3%AD [CC BY-SA 4.0]
  18. Praha 1「Obyvatelé Prahy 1 rozhodli: Známe vítěze prvního ročníku participativního rozpočtu」(2025-04-17)— https://www.praha1.cz/obyvatele-prahy-1-rozhodli-zname-viteze-prvniho-rocniku-participativniho-rozpoctu/

記事の間違いや、知りたいこと(「〜ってなに?」)を受け付けています。送られた内容は公開の issue になります。

この記事の間違いを知らせる ・ 質問する