Collective Intelligence Project(CIP)とは?どんな団体?
AI がどう振る舞うべきかは、今のところ主に AI を作る会社が決めています。けれども AI の影響を受けるのは、私たち一人ひとりです。「AI の行き先を、ふつうの人々の話し合いで決められないだろうか」。Collective Intelligence Project(CIP)は、この問いに実際の仕組みで答えようとしている団体です。
ひとことで言うと
Collective Intelligence Project(CIP、直訳すると「集合知プロジェクト」。本の日本語版は原語のまま書いています[1])は、非営利の団体です。AI のように社会を大きく変える技術を「どう作り、どう使うか」を、一部の企業や専門家だけでなく、一般の人々の話し合いで決められるようにする仕組みを研究し、実際に試しています[2][3]。
2022 年の終わりに、ディヴィヤ・シッダールト(Divya Siddarth)とサフロン・ホアン(Saffron Huang)が始めました[2][3]。
たとえば
Alignment Assemblies(2023 年〜)。 「AI はどう振る舞うべきか」を、ふつうの人々に集まって話し合ってもらい、その結果を AI 企業や政府の決定に届ける取り組みです。CIP は 2023 年 11 月の時点で、英国政府の AI の専門部会、OpenAI、Anthropic、台湾のデジタル発展部などと、実施や協力をしていました[4]。台湾のデジタル発展部は 2023 年 5 月に、CIP の正式な協力相手になっています[5]。くわしくは Alignment Assemblies の記事で扱います。
Collective Constitutional AI(2023 年、Anthropic と)。 米国の大人約 1,000 人を代表するように選んだ人々に、AI のチャットにどう振る舞ってほしいかを、意見を整理する道具 Polis で尋ねました。そこから作った「みんなの憲法」(AI の振る舞いの決まり)で、実験用の AI を学習させたのです[6]。
CIP は、この「みんなの憲法」の AI は、多くの種類の偏見について偏りが小さく、数学や言葉の理解などの力は標準の AI と変わらなかった、と報告しています[6]。
Global Dialogues と Weval(2025 年〜)。 CIP は 2 か月ごとに、世界を代表するように選んだ人々に、AI とともにある暮らしについて尋ねています。2025 年は 70 か国・6,000 人以上への 7 回分をまとめました。58% の人が、選挙で選ばれた代表者より AI のチャットボットを信頼する、67% の人が少なくとも月に一度は心の支えに AI を使う、といった結果が出ています[7]。
また、地域や分野ごとに AI を評価する方法を、人々が自分で作って共有する場「Weval」も作っています[8]。
くわしく
名前と始まり
シッダールトは TED の講演で、始まりを語っています。共同創設者のホアンとともに Google DeepMind と Microsoft の職を辞め、変革的な技術を民主的に治める新しいモデルを作る非営利団体を立ち上げた。みんなが豊かになるための集合知を育て続ける、という意味をこめて、この名前をつけた、という趣旨です[3]。シッダールトは 2025 年の時点で事務局長を務めています[2]。
三つを同時に満たす「第四の道」
CIP の設立の文書(白書)は、社会を大きく変える技術の扱い方をめぐる考え方を整理しています。どの陣営も、「進歩」「参加」「安全」の三つのうち一つを犠牲にしがちだ、というのです[9]。
- 安全を犠牲にするのが、とにかく速く進める資本主義の加速。
- 参加を犠牲にするのが、少数の専門家や権力者が決める技術官僚の支配。
- 進歩を犠牲にするのが、みんなで止まってしまう停滞。
CIP は、そのどれでもない「第四の道」として、三つをすべて満たす集合知の仕組みを研究し、作ることを掲げました[9]。ここでいう集合知は、集団が共通の目標を立て、そこへ向けて協力する力を広げる、決め方の技術・手順・制度のことです。市場や国の民主主義も、その一種だとしています[9]。
二本の柱
白書は、最初に取り組む範囲を二つにしました[9]。
- 価値を引き出す — 重なり合う集団の食い違う価値を浮かび上がらせ、まとめること。
- 技術の組織を作り直す — 集まった価値を実際に行える組織を作ること。利益に上限を設けた会社の試作などです。
最初の計画には、AI の使い方を市民の会議で決める試みのほか、Polis、Talk to the City(大勢の意見を AI で整理する道具)、RadicalxChange など、近い取り組みを支えることが並んでいました[9]。
個人ではなく集団から
2025 年のポッドキャストで CIP は、技術とのやり取りを「個人から集団へ」移すことを原則の一つに挙げました。ある共同体が話し合い、自分たちの価値に沿うように AI を調整する「コミュニティ・モデル」の試みも紹介しています[2]。
経済の研究
シッダールト、マシュー・プルーウィット(Matthew Prewitt)、グレン・ワイル(E. Glen Weyl)の論文は、CIP のサイトで公開されています。一人ずつより大勢にまとめて提供するほうが安く効果的になるもの(「スーパーモジュラー」なもの)は、公か私かの二つの分け方では扱いきれず、みんなで供給し治める仕組みが要る、と論じています[10]。くわしくは スーパーモジュラリティ の記事で扱います。
どこが議論になっているか
- 本の記述と一次資料のずれ。 書籍『Plurality』の 5-4 章は、Anthropic が CIP と協力して、「最近リリースされた Claude3 モデル」が振る舞いを導く憲法を Polis で集めた、と書いています[11]。けれども CIP 側の一次資料は、みんなの憲法で学習させたのは比べるための実験用の AI だったと書いており、Claude 3 に使われたとは書いていません[6][12]。オードリー・タン(Audrey Tang)は 2024 年 4 月のインタビューで、Claude 3 Opus が大勢で作った憲法で調整された、と語っています[13]。Claude 3 に使われたかどうかは、Anthropic 自身の発表で確かめる必要があります。
Plurality の中での位置
書籍『Plurality』の 5-4 章「拡張熟議」は、CIP を「⿻ の NGO」と呼んでいます[11]。上の Anthropic との協力のほか、OpenAI も CIP と緊密に連携して AI への民主的な意見を集める助成の仕組みを行い、それをもとに専門のチームを作りつつある、と書いています[11]。
7-0 章「政策」は、公衆が自ら技術の決定に加われる手段の一つとして、alignment assemblies を CIP のページへのリンクつきで挙げています[14]。3-2 章・4-3 章・5-0 章は、スーパーモジュラリティの説明に CIP のサイトの論文を引いています[15][16]。
CIP のブログには、シッダールト、ワイル、アン=マリー・スローター(Anne-Marie Slaughter)の「ネットワーク国家ではなくネットワーク社会を」も載りました[17]。これは ネットワーク国家 への批判です。
タンは CIP の上級研究員(Senior Research Fellow)を名乗っています[18]。タンとキャロライン・グリーン(Caroline Green)の 6-Pack of Care の用語集は、Alignment Assembly を CIP が言葉と形を作った道具として挙げ、CIP の Weval も、みんなで共有する評価の実例として紹介しています[19][20]。この流れは シビック AI の記事でも扱います。
もっと知りたい人へ
- Divya Siddarth「How AI and democracy can fix each other」(英語・講演、TED)— https://www.ted.com/talks/divya_siddarth_how_ai_and_democracy_can_fix_each_other
- 『Plurality』5-4「拡張熟議」(日本語・本)— https://www.plurality.net/v/chapters/5-4/jpn/
- CIP 白書(英語・文書)— https://www.cip.org/whitepaper
- CIP「CIP and Anthropic launch Collective Constitutional AI」(英語・記事)— https://www.cip.org/blog/ccai
- Collective Constitutional AI(FAccT 2024、英語・論文)— https://arxiv.org/abs/2406.07814
- CIP「How the World Lives with AI」(英語・報告)— https://blog.cip.org/p/2025gdindex
出典
- 『PLURALITY』日本語版 5-4「拡張熟議」— https://www.plurality.net/v/chapters/5-4/jpn/ [CC0]
- Computer Says Maybe「The Collective Intelligence Project」(2025-05-30、ポッドキャスト)— https://share.transistor.fm/s/bf0d5209
- Divya Siddarth「How AI and democracy can fix each other」(TED、2023)— https://www.ted.com/talks/divya_siddarth_how_ai_and_democracy_can_fix_each_other [CC BY-NC-ND 4.0]
- CIP「Alignment Assemblies: Nine Months In」(2023-11-16)— https://www.cip.org/blog/alignment-assemblies-nine-months-in
- 數位發展部「對齊大會」— https://moda.gov.tw/major-policies/alignment-assemblies/1453
- CIP「CIP and Anthropic launch Collective Constitutional AI」(2023-10-17)— https://www.cip.org/blog/ccai
- CIP「How the World Lives with AI」(Global Dialogues 2025、2026-01-21)— https://blog.cip.org/p/2025gdindex
- CIP「Notes on building collective intelligence into evals」(2025-09-29)— https://blog.cip.org/p/notes-on-building-collective-intelligence
- CIP 白書(2023)— https://www.cip.org/whitepaper
- Divya Siddarth, Matthew Prewitt, Glen Weyl「Beyond Public and Private: Collective Provision Under Conditions of Supermodularity」— https://cip.org/supermodular
- 『Plurality』5-4「Augmented Deliberation」— https://www.plurality.net/v/chapters/5-4/eng/ [CC0]
- Collective Constitutional AI(FAccT 2024 論文)— https://arxiv.org/abs/2406.07814 [CC BY 4.0]
- 商周 四月專欄 訪談唐鳳部長(2024-04-09)— https://sayit.archive.tw/2024-04-09-%E5%95%86%E5%91%A8%E5%9B%9B%E6%9C%88%E5%B0%88%E6%AC%84%E8%A8%AA%E8%AB%87%E5%94%90%E9%B3%B3%E9%83%A8%E9%95%B7%E9%80%90%E5%AD%97%E7%A8%BF [CC0]
- 『Plurality』7-0「Policy」— https://www.plurality.net/v/chapters/7-0/eng/ [CC0]
- 『Plurality』5-0「Collaborative Technology and Democracy」— https://www.plurality.net/v/chapters/5-0/eng/ [CC0]
- 『Plurality』4-3「Commerce and Trust」— https://www.plurality.net/v/chapters/4-3/eng/ [CC0]
- Divya Siddarth, Glen Weyl, Anne-Marie Slaughter「We need network societies, not network states」(2024-05-20)— https://www.cip.org/blog/network-societies
- audreyt.org — https://audreyt.org/
- civic.ai Glossary — https://civic.ai/glossary/ [CC0]
- civic.ai Measures — https://civic.ai/measures/ [CC0]
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