RadicalxChange(RxC)とは?どんな団体?
新しい投票のやり方や、財産やデータの新しい扱い方を思いついても、それを試す場がなければ、机の上の案で終わってしまいます。RadicalxChange(ラディカル・エクスチェンジ)は、そうしたアイデアを考え、実際の場で試してみる人たちの団体であり、運動です。書籍『Plurality』とも深いつながりがあります。
ひとことで言うと
RadicalxChange(略して RxC)は、経済学者のグレン・ワイル(E. Glen Weyl)が、本『ラディカル・マーケット』(2018 年)の反響をもとに立ち上げた国際的な非営利団体です。その周りには、研究者・芸術家・起業家・活動家が集まり、運動になっています[1][2][3]。
投票や財産、データの新しい仕組みを考え、実際に試しています[1][2]。書籍『Plurality』の著者紹介はワイルを創設者としています[4]。雑誌 TIME(2024 年)は、オードリー・タン(Audrey Tang)とヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)も、ワイルとともに理事だと書いています[1]。
たとえば
クアドラティック投票の実地の試し。 中国語版ウィキペディアによれば、2019 年に台北で RxC が主催した「総統ハッカソン(總統黑客松)」で、台湾で初めて クアドラティック投票(多くの票を一つに注ぐほど割高になる投票法)が使われました[5]。
自分たちの決めごとに使う。 書籍『Plurality』の 5-6 章は、票を人に預ける 液体民主主義 の権力の集中を避ける工夫について、「⿻ を推進する非営利団体 RadicalxChange が内部の意思決定のためにこれに近い仕組みを実装している」と書いています[6]。
書籍『Plurality』づくりと広報。 2022 年 9 月、タンとワイルの名前で本の構想(本人たちは、最初のおおまかな下書きという位置づけにしていました)が RxC のブログに公開され、みんなで書く共同執筆への協力が呼びかけられました[7]。2024 年 5 月には、RxC が各地の団体と組んで、タンとワイルがマドリードやパリなどヨーロッパの都市を回るツアーを開きました[8]。
くわしく
成り立ち
TIME によれば、『ラディカル・マーケット』は 2018 年に出版されると大きな話題になりました。ワイルはその熱を、本の考えを進める非営利団体 RxC 財団の立ち上げに向けました[1]。最初の RxC の大会は、2019 年 3 月にアメリカのデトロイトで開かれ、ブテリンも登壇しています[9]。
それより前の 2018 年 9 月、ワイルはブテリンとの往復メールを公開していました。ブテリンが挙げた課題に対して、ワイルは、どれも近いうちに実験することの妨げにはならない、という趣旨で返しています[10]。
名前の「X」
タンは 2020 年、日本の出版社の取材で、「RxC の『X』は交換様式の『X』」だと述べました[11]。
これは、日本の哲学者・柄谷行人(からたに・こうじん)の考えにもとづいています。タンの説明では、交換は「知っている人か、知らない人か」と「見返りを求めるか、求めないか」の二つの軸で分けられます。家族(知っている人・見返りなし)、国家(知っている人・対価あり)、市場(知らない人・対価あり)に続く四つ目が、「知らない人と、見返りなしに分かち合う」交換で、柄谷はこれを「X」と呼んだ、というのです[11]。タンは別の回で、ワイルと知り合って柄谷の考えを紹介し、それが合わさってこの財団になった、と語っています[12]。くわしくは 交換様式 の記事で扱います。
何を目指すのか
ワイルは 2019 年の文章「What is RadicalxChange?」で、運動の出発点になる診断を書いています[13]。資本主義は、みんなで組むと部分の足し算以上のことができる場面を、うまく扱えない。それを補うはずの国単位の民主主義も、硬くなりやすい。そこでワイルは、資本主義と国家主義、個人主義と集団主義の対立を超える、といった原則を番号つきで並べました[13]。
同じ年の末の文章は、RxC が広めてきた仕組みとして次のものを挙げています[2]。
- クアドラティック投票(QV)
- クアドラティック・ファンディング(QF、公共のためのお金を配る仕組み)
- 自己申告の免許を競売で売る財産の仕組み(SALSA。関連する考え方は ハーバーガー税 の記事を参照)
- データの尊厳(データを作った人の権利を大事にする考え)
- 人がいくつもの集団に属することを踏まえた社会のデータ
いまの活動(2025〜2026 年)
2026 年の時点で、事務局長はジェス・スカリー(Jess Scully、元シドニー副市長)です[3]。スカリーは 2026 年 9 月の RxC のブログで、ワイルが唱えた リバース・アラインメント(AI ではなく社会の制度の側を AI の時代に合わせて作り直す取り組み)に、RxC として民主主義の分野で加わると書いています[14]。
どこが議論になっているか
- 運動としての成果。 TIME は、財団は一定の成果を上げたが、ワイルが Plurality について掲げる目標(2030 年までに中心となる 1,000 人、100 万部、10 億人の共感)には遠く及ばなかった、と書いています[1]。
- 誰が作ったのか、資料によって言い方が違います。 本の著者紹介はワイルを「創設者」とし[4]、タンも 2020 年の取材で、この財団を作ったのはワイルだと語りました[12]。一方で、タンの日本語の本の抜粋記事では、ワイルとともにニューヨークで財団を作った、という書き方になっています[15]。鈴木健の日本語版の解説も、ワイルが自分で作ったという書き方と、タンやブテリンらとともに作ったという書き方の両方をしています[16]。リバース・アラインメントの連合のサイトは、ワイルを「共同創設者」としています[3]。
- 「X」の由来は、柄谷の原典と完全には一致しません。 柄谷自身の用語は「交換様式 D」です。李舜志(リ・スンジ、教育学者)によれば、柄谷は、自分とタンの交換様式論は少し違うと言っています。タンは、柄谷の「交換様式 D」と「社会構成体 X」を合わせて「交換様式 X」と呼んでいる、と李は説明しています[17]。
Plurality の中での位置
書籍『Plurality』の英語版の著者紹介は、ワイルを「RadicalxChange の創設者」としています[4]。5-6 章「⿻ 投票」は、RxC を「⿻ を推進する非営利団体」と呼んで内部の意思決定の例に挙げ、アメリカのコロラド州議会がクアドラティック投票を使った例では RxC のページを参照先にしています[6]。
5-7 章「社会市場」と 4-3 章「商取引と信頼」も、くわしい説明の参照先として RxC のサイトを指しています[18][19]。
TIME によれば、ワイルとタンを 2018 年に引き合わせたのはブテリンでした[1]。RxC は、本のもとになったワイルの『ラディカル・マーケット』と、書籍『Plurality』をつなぐ場になっています。
もっと知りたい人へ
- 鈴木健『PLURALITY』日本語版 解説(日本語・解説)— https://note.com/digitaldemocracy/n/nb8b59a6b775d
- 『Plurality』5-6「⿻ 投票」(日本語・本)— https://www.plurality.net/v/chapters/5-6/jpn/
- Glen Weyl「What is RadicalxChange?」(英語・記事)— https://www.radicalxchange.org/updates/blog/2019-02-25-xjekue/
- Glen Weyl「The Political Philosophy of RadicalxChange」(英語・記事)— https://www.radicalxchange.org/updates/blog/2019-12-30-gqx4th/
- 唐鳳「Digital Press 第四次來訪」(中国語・取材記録)— https://archive.tw/2020-07-24-digital-press-%E7%AC%AC%E5%9B%9B%E6%AC%A1%E4%BE%86%E8%A8%AA
- Jess Scully「On Reverse Alignment」(英語・記事)— https://www.radicalxchange.org/updates/blog/on-reverse-alignment/
出典
- TIME「Inside Audrey Tang's Plan to Align Technology with Democracy」(2024)— https://time.com/6979012/audrey-tang-interview-plurality-democracy/
- Glen Weyl「The Political Philosophy of RadicalxChange」(2019-12-30)— https://www.radicalxchange.org/updates/blog/2019-12-30-gqx4th/
- Reverse Alignment 連合のサイト — https://reversealignment.ai/
- 『Plurality』0-1「About the authors」— https://github.com/pluralitybook/plurality/blob/main/contents/english/0-1-About-the-authors.md [CC0]
- 中国語版 Wikipedia「平方投票法」— https://zh.wikipedia.org/zh-tw/%E5%B9%B3%E6%96%B9%E6%8A%95%E7%A5%A8%E6%B3%95 [CC BY-SA 4.0]
- 『Plurality』5-6「⿻ Voting」— https://www.plurality.net/v/chapters/5-6/eng/ [CC0]
- Audrey Tang & Glen Weyl「Plurality: Technology for Collaborative Diversity and Democracy」(2022-09-15)— https://www.radicalxchange.org/updates/blog/plurality-technology-for-collaborative-diversity-and-democracy/
- RadicalxChange「2024 Plurality European Tour」— https://www.radicalxchange.org/events/2024-plurality-european-tour/
- RadicalxChange 2019 デトロイト大会 Vitalik Buterin 講演(動画)— https://www.youtube.com/watch?v=rZ98-7GM55Q
- Glen Weyl「A RadicalxChange between Vitalik Buterin and Glen Weyl」(2018-09-29)— https://medium.com/@glenweyl/a-radicalxchange-between-vitalik-buterin-and-glen-weyl-328d8ad088cf
- 唐鳳「Digital Press 第四次來訪」(2020-07-24)— https://archive.tw/2020-07-24-digital-press-%E7%AC%AC%E5%9B%9B%E6%AC%A1%E4%BE%86%E8%A8%AA [CC0]
- 唐鳳「Digital Press 第五次來訪」(2020-08-14)— https://archive.tw/2020-08-14-digital-press-%E7%AC%AC%E4%BA%94%E6%AC%A1%E4%BE%86%E8%A8%AA [CC0]
- Glen Weyl「What is RadicalxChange?」(2019-02-25)— https://www.radicalxchange.org/updates/blog/2019-02-25-xjekue/
- Jess Scully「On Reverse Alignment」(2026-09)— https://www.radicalxchange.org/updates/blog/on-reverse-alignment/
- 幻冬舎 GOLD ONLINE(タンの本の抜粋、2021-05-28)— https://gentosha-go.com/articles/-/34442
- 鈴木健『PLURALITY』日本語版 解説 — https://note.com/digitaldemocracy/n/nb8b59a6b775d
- ダイヤモンド・オンライン 李舜志インタビュー(中編)— https://diamond.jp/articles/-/370388
- 『Plurality』5-7「Social Markets」— https://www.plurality.net/v/chapters/5-7/eng/ [CC0]
- 『Plurality』4-3「Commerce and Trust」— https://www.plurality.net/v/chapters/4-3/eng/ [CC0]
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