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クアドラティック投票ってなに?

全員に同じ数の「持ち点」を配り、好きな案に振り分けて投票するやり方です。1 票は 1 点、2 票は 4 点、3 票は 9 点と、票の数の 2 乗だけ点がかかるので、強い気持ちは示せても、一つに全部つぎ込むのは割高になります。

ふつうの投票では、「少しだけ賛成」の人も「人生がかかるほど反対」の人も、同じ 1 票です。これでは、気持ちの強さの違いが結果に出ません。クアドラティック投票(Quadratic Voting、略して QV)は、この「どれだけ強く望んでいるか」を票に映すために考えられた投票のやり方です。「クアドラティック」は「2 乗の」という意味で、日本語では「二次投票」とも呼ばれます。

ひとことで言うと

QV では、全員に同じ数の持ち点を配ります。人はそれを好きな案に振り分けて投票します。ただし、1 つの案に 1 票入れると 1 点、2 票で 4 点、3 票で 9 点と、票の数の 2 乗の点がかかります[1][2]。

だから、本当に大事な案には多めに入れられます。でも、1 つの案に全部つぎ込むと、点のわりに票が増えません。

たとえば

台湾の総統杯ハッカソン(2019 年)。 台湾政府は、参加者や市民が優勝チーム選びを手伝う投票に QV を使いました。これは書籍『⿻ Plurality』の 2-2 章の書き方で、同じ本の 7-0 章は、QV を使った市民の参加で「上位 20 チーム」を選ぶ、と書いています。QV で選ぶものの書き方が、章によって違うのです[4][5]。当時デジタル担当の閣僚だったオードリー・タン(唐鳳)は、準備の会議でこう説明しています。持ち点が 100 点なら、100 点を 1 つの案に全部使っても 10 票にしかならない。でも 2 つの案に 7 票ずつ入れれば、49 点 + 49 点 = 98 点で済み、2 点余る[1]。実際の本番では 1 人 99 点だった、とタンは同じ年の面談で述べています[3]。書籍『⿻ Plurality』は、この方式のおかげで多くの参加者が「少なくとも一部は勝った」と感じられ、強く推したい人は大きく後押しできた、と書いています[4]。

アメリカ・コロラド州議会(2019 年)。 中国語版ウィキペディアによれば、2019 年 4 月にコロラド州下院の民主党の議員たちが QV を試しました。持ち点は各人 100 で、1 つの法案に最大 10 票、または 4 つの法案に 5 票ずつ入れることができました。いちばん票を集めたのは同一賃金の法案(60 票)で、持ち点を全部 1 つの法案に使った人はいませんでした[6]。一方、書籍『Plurality』は、コロラド州議会が予算の優先順位をつけるのに QV を「頻繁に」(frequently)使っている、と書きます[11]。けれども、ウィキペディアが挙げる具体例はこの 2019 年 4 月の試行だけで、「頻繁に」を裏づける回数の記録は確かめられていません。タンは 2019 年 12 月の取材で、コロラド州の予算も今は QV で決まる、と口頭で述べていますが、回数や年は言っていません[7]。

ゲーム『Civilization VI』。 この文明ゲームの拡張版の「世界会議」では、1 票目は無料で、追加の票はだんだん高くなります。本は、これを著者の一人(日本語版はグレン・ワイルと明記)が考えた QV の変種として紹介しています[8]。

しくみ

小さな計算例

持ち点を 16 点としましょう[6]。

どちらも同じ 16 点です。一つに集中すると 4 票、広く薄く入れると合計 16 票になります。強い気持ちを票の多さで示せますが、そのぶんほかの案に使える点が減ります。日本語版の解説で鈴木健は、5 票に 25 点かかる例を挙げています(5 × 5 = 25)[2]。

なぜ「2 乗」なのか

イーサリアムの創始者ヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)は、入門の記事でこれを「n 票目の 1 票は n 円(記事ではドル)」と言い換えています[9]。

1 票目は 1、2 票目は 2、3 票目は 3……と、次の 1 票がだんだん高くなります。すると人は、「次の 1 票の値段」が「その案がどれだけ大事か」に追いつくところまで票を買います。ある人が別の人の 2 倍その案を大事に思っていれば、ちょうど 2 倍の票を買うことになります。つまり、票の数が気持ちの強さにぴったり比例するのです。

n 票ぶんの値段を全部足すと、およそ n² ÷ 2 になります。これが「2 乗(二次)」の名前の由来だ、とブテリンは説明します[9]。記事の初めの「票の数の 2 乗の点がかかる」(n 票に n² 点)とは係数が 1/2 違うだけで、どちらも合計の値段が票の数の 2 乗に比例し、次の 1 票の値段が票の数に比例して上がる点は同じです(n² 点の方式では、n 票目の 1 票は n² − (n−1)² = 2n − 1 点)。ワイルらの論文の要旨も、2 乗の費用のときだけこの性質が生まれ、社会全体にとって最もよい結果になると書いています[10]。

本の説明 ― 平方根の考え方

書籍『Plurality』の 5-6 章は、別の角度から説明します[11]。互いに関係のない人たちの票は、平均すると打ち消し合うので、影響は票数の平方根でしか増えません。一方、1 人がまとめて持つ票はそのまま効きます。本の例では「無関係な 1 万票は、まとまった 100 票と同じ重さ」です(100 × 100 = 10,000)。

だから、各人に「気持ちの強さの平方根」だけの重みを与えるのが公平だ、と本は考えます。QV では、票数は点の平方根になる(16 点で 4 票)ので、ちょうどこの形になります[11]。

タンも 2019 年の面談で、1 万元つぎ込んでも 100 票にしかならないが、100 人が 1 元ずつ出しても 100 票になる、お金のある人と人のつながりのある人が同じ位置に立てる、と説明しました[3]。

お金か、点数か

QV は、票をお金で買う形も考えられています。その場合、集まったお金は公共のために使われ、投票した人たちに戻るとされます[6]。一方、台湾のハッカソンで使った点数はお金ではありませんでした[1]。タンは、よく分からない議題では投票せずに点を残せることも利点に挙げています[3]。

どこから来たのか

似た 2 乗の仕組みは 1970 年代から提案されていました。それをワイルが 2012 年に投票の形で改めて示し、のちに数学的に裏づけられた、とブテリンらの 2018 年の論文は整理しています[12]。QV は、ワイルと法学者エリック・ポズナーの前の本『Radical Markets(ラディカル・マーケット)』でも中心の提案でした[13]。

どこが議論になっているか

Plurality の中での位置

書籍『Plurality』は 5-6 章「⿻投票」で、QV を 液体民主主義 と並ぶ「有望だが不完全な」工夫として紹介します[11]。

ただし本は QV で止まりません。平方根の規則がいちばん良いのは、投票する人たちが「中では一枚岩で、外とは無関係」という特別な場合だけだ、と本は書きます[11]。そこで、人のつながりを考えに入れて票を数える方向へ進みます。ブテリンはこの変化を、『Radical Markets』では気持ちの強さの問題だったが、『Plurality』ではつながった票をどう数えるかという別の問題に取り組んでいる、と評しました[13]。

同じ考え方をお金の配分に使ったのが、5-7 章の クアドラティック・ファンディング です[21]。QV が「一人が何人にもなれない」ことを前提にしている点で、ID と人物性 の話にもつながります。

もっと知りたい人へ

  1. 鈴木健「Plurality 日本語版解説」(日本語・解説)— https://note.com/digitaldemocracy/n/nb8b59a6b775d
  2. 書籍『Plurality』5-6「⿻投票」(日本語・本)— https://www.plurality.net/v/chapters/5-6/jpn/
  3. 平方投票法(中国語・ウィキペディア)— https://zh.wikipedia.org/zh-tw/%E5%B9%B3%E6%96%B9%E6%8A%95%E7%A5%A8%E6%B3%95
  4. Vitalik Buterin「Quadratic Payments: A Primer」(英語・記事)— https://vitalik.eth.limo/general/2019/12/07/quadratic.html
  5. 総統杯ハッカソンの投票方式の討論(2019 年、中国語の逐語録)— https://sayit.archive.tw/2019-02-18-%E7%B8%BD%E7%B5%B1%E7%9B%83%E9%BB%91%E5%AE%A2%E6%9D%BE%E7%A5%A8%E9%81%B8%E6%96%B9%E5%BC%8F%E8%A8%8E%E8%AB%96
  6. Buterin・Hitzig・Weyl「A Flexible Design for Funding Public Goods」(英語・論文)— https://arxiv.org/abs/1809.06421

出典

  1. 総統杯ハッカソン票選方式討論(2019-02-18、唐鳳の逐語録)— https://sayit.archive.tw/2019-02-18-%E7%B8%BD%E7%B5%B1%E7%9B%83%E9%BB%91%E5%AE%A2%E6%9D%BE%E7%A5%A8%E9%81%B8%E6%96%B9%E5%BC%8F%E8%A8%8E%E8%AB%96 [CC0]
  2. 鈴木健「Plurality 日本語版解説」— https://note.com/digitaldemocracy/n/nb8b59a6b775d
  3. 唐鳳と張潔平・高重建の面談(2019-09-23)— https://sayit.archive.tw/2019-09-23-%E5%BC%B5%E6%BD%94%E5%B9%B3%E5%8F%8A%E9%AB%98%E9%87%8D%E5%BB%BA%E6%8B%9C%E6%9C%83 [CC0]
  4. 『Plurality』2-2「The Life of a Digital Democracy」— https://www.plurality.net/v/chapters/2-2/eng/ [CC0]
  5. 『Plurality』7-0「Policy」の総統杯ハッカソンの段落 — https://www.plurality.net/v/chapters/7-0/eng/ [CC0]
  6. 平方投票法(繁体中文版ウィキペディア)— https://zh.wikipedia.org/zh-tw/%E5%B9%B3%E6%96%B9%E6%8A%95%E7%A5%A8%E6%B3%95 [CC BY-SA 4.0]
  7. 唐鳳の取材の記録(Adrien Simorre、2019-12-27、英語)— https://github.com/audreyt/transcript/blob/main/2019-12-27-Interview-with-Adrien-Simorre.md [CC0]
  8. 『Plurality』5-6「⿻ Voting」冒頭 — https://www.plurality.net/v/chapters/5-6/eng/ [CC0]
  9. Vitalik Buterin「Quadratic Payments: A Primer」(2019)— https://vitalik.eth.limo/general/2019/12/07/quadratic.html
  10. Lalley & Weyl「Quadratic voting: How mechanism design can radicalize democracy」要旨(2018)— https://www.microsoft.com/en-us/research/publication/quadratic-voting-how-mechanism-design-can-radicalize-democracy/
  11. 『Plurality』5-6「⿻ Voting tomorrow」— https://www.plurality.net/v/chapters/5-6/eng/ [CC0]
  12. Buterin・Hitzig・Weyl「A Flexible Design for Funding Public Goods」(2018)— https://arxiv.org/abs/1809.06421
  13. Vitalik Buterin「Plurality philosophy in an incredibly oversized nutshell」(2024-08-21)— https://vitalik.eth.limo/general/2024/08/21/plurality.html
  14. Vitalik Buterin「On Collusion」(2019)— https://vitalik.eth.limo/general/2019/04/03/collusion.html
  15. syumi_data「読書022_テクノ専制とコモンへの道(李舜志)」(note、2026-01-03)— https://note.com/syumi_data1230/n/n5d4a2c2115e0
  16. 『Plurality』5-6「Limits of ⿻ voting」— https://www.plurality.net/v/chapters/5-6/eng/ [CC0]
  17. 西尾泰和「Quadratic Votingと組織票」(Cosense)— https://scrapbox.io/nishio/Quadratic_Voting%E3%81%A8%E7%B5%84%E7%B9%94%E7%A5%A8
  18. Project Aequitas「民主主義をアップデートしようとした三人と、その共通のバグ」(note、2026-07-11)— https://note.com/glossy_lemur5728/n/n75e891a7f46b
  19. E. Glen Weyl「Why I Am not a Market Radical」(2020)— https://www.radicalxchange.org/updates/blog/why-i-am-not-a-market-radical/
  20. 西尾泰和「伴走型プログラムの採択にQVは向いていない」(Cosense)— https://scrapbox.io/nishio/%E4%BC%B4%E8%B5%B0%E5%9E%8B%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%81%AE%E6%8E%A1%E6%8A%9E%E3%81%ABQV%E3%81%AF%E5%90%91%E3%81%84%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%AA%E3%81%84
  21. 『Plurality』5-7「Social Markets」— https://www.plurality.net/v/chapters/5-7/eng/ [CC0]

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