Alignment Assemblies(アライメント集会)ってなに?
AI に「何を答えてよくて、何を断るべきか」を決めているのは、いまのところ主に開発する企業です。けれども AI は、使う人すべての暮らしに関わります。それなら、ふつうの人も決める場に加わるべきではないでしょうか。Alignment Assemblies(アライメント集会)は、この問いに実際の集まりで答えようとする試みです。
ひとことで言うと
AI の研究では、AI を人の価値に合わせることを「アラインメント(alignment、整合)」と呼びます。Alignment Assemblies は、このアラインメントを企業の中だけで決めず、ふつうの人々を集めて(assembly)話し合ってもらい、その結果を AI 企業や政府の決定に届ける取り組みです[1][2]。
2023 年に、米国の非営利団体 Collective Intelligence Project(CIP、集合知プロジェクト)が始めました。台湾のデジタル発展部(moda)も同じ年にパートナーになりました[1][2]。
たとえば
Anthropic と「みんなで作る憲法」(2023 年)。 CIP と AI 企業 Anthropic は、米国の成人の代表的なサンプルに「AI はどう振る舞うべきか」を尋ねました。使ったのは、意見を出し合い賛否を投じるツール Polis です。1,002 人が 1,127 件の文を書き、38,252 票を投じました。立場の違うグループをまたいで支持された文から「公衆の憲法」を作り、それで言語モデル(文章を作る AI)を学習させました。論文によると、このモデルは Anthropic の標準の憲法で学習したモデルより、9 つの社会的な面すべてで偏りが小さく、性能は同じくらいでした[3]。
台湾・生成 AI をめぐるワークショップ(2023 年)。 moda はオンラインで生成 AI への意見を集めました(2023 年 8 月 1 日時点で 403 人・8,591 票・126 件の意見)。その結果を、意見を地図のように見せるツール Talk to the City で整理しました。それを材料に、国立政治大学のチームが台北と台南で計 95 人の対面ワークショップを開きました[4][5]。
台湾・「AI で情報の完全性(信頼できる情報が保たれること)を高める」市民審議(2024 年 3 月 23 日)。 政府の公式の携帯メッセージ番号「111」から、無作為に 20 万通の招待を送りました。有効な回答 1,760 件から、性別・年齢・住む地域が偏らないよう選び、447 人が 44 のグループに分かれてオンラインで話し合いました。テーマは、大きなプラットフォームが AI を使って、AI で作った偽の映像(ディープフェイク)などから情報の完全性をどう守るか、でした。moda は、この結果を、詐欺の広告やディープフェイク広告を規制する政府の法案とつなげたと書いています[6]。
しくみ
なぜ始まったか
CIP のディヴィヤ・シッダルト(Divya Siddarth)とサフロン・ホアン(Saffron Huang)は、2023 年 5 月の立ち上げの文章で次のように論じました。技術は技術者に、何を作るかは投資家に、危険は規制当局に任せる。このいつものやり方は、AI のように社会全体に及ぶ技術ではうまくいかない、というのです。市場で決めれば少数の企業の都合に偏り、政策は遅くて大ざっぱです。だから人々の意見を、AI そのものと、AI を治めるしくみの土台に組み込む必要がある、と二人は主張しました[1]。
名前にも意味があります。技術を人々の価値に合わせる(align)から "alignment"、ふつうの人々を集める(assemble)から "assemblies" です[1]。立ち上げのチームには、台湾のオードリー・タン(Audrey Tang、唐鳳)も名を連ねていました[1]。
進め方
CIP は 2023 年 11 月のふり返りで、どの集会でも最初に四つを決めると書きました[7]。
- 何を変えたいか(めざす成果)
- 誰を集めるか(関係する人々)
- 何を問うか(話し合う範囲)
- どう行うか(道具と手順)
とくに大事にしたのは、集会ごとに「影響を与えられる具体的な決定」と結びつけることです。道具は Polis などのデジタルのものが中心で、対面と組み合わせる形も試しました[7]。
誰と行ったか
2023 年 11 月の時点で、CIP は英国政府の AI の専門部会、OpenAI、Anthropic、台湾の moda などと集会を開いたり協力したりしていました。OpenAI と Anthropic との集会では、年齢・性別・所得・地域が米国の人口と同じ割合になるよう選んだ約 1,000 人ずつを集めました[7]。
台湾での考え方
タンは 2023 年 10 月の OpenAI との会合で、集会の最小単位は個人ではなく共同体であるべきだ、と主張しました。個人の声をただ足し合わせると、共同体のやりとりの中にある多様さが失われる、という考えです[8]。2025 年 12 月の講演では、台湾の集会を「一方から見れば市民集会、もう一方から見れば世論調査。ただし個人ではなく 10 人のグループを調べるもの」と説明しています[9]。
どこが議論になっているか
- 助言にとどまる。 CIP 自身が、これまでの参加型の手続きの多くは、関係者が自分から約束してくれることに頼る「助言」の位置にあり、責任を問うしくみをほとんど生まない、と認めています[7]。
- デジタル参加の難しさ。 OpenAI との集会では、意味の通らない文、ヘイト、テーマ外の文、実行できない文を、方針に沿って言い換えたり消したりする必要がありました。またデジタルに頼ると、道具に不慣れな人が取り残されることも CIP は指摘しています[7]。
- 誰の声を代表しているか。 2023 年の台湾のワークショップは、参加者の多くが自分から来た人や招かれた専門家で、社会全体を代表していないと公式の報告に書かれました。2024 年の無作為の招待はその改善ですが、20 万通に対して応募は 1,760 人で、1% 未満でした[5]。
- 「集会が法律を作った」のか。 ブロードリスニング本(DD2030 の有志による『政治・自治体・企業に広がるブロードリスニング』、2026 年)は 2024 年の集会について、「85%の市民が『プラットフォームは情報完全性向上の主責任を負うべき』と支持し」たと書き、4 か月後に詐欺対策の法律が施行されたことと合わせて、話し合いが立法を後押ししたと描きます[5]。一方、タンらの 6-Pack of Care の用語集は、この集会は政府の法案がすでに動いている中で、勧告を公に記録し制度が応える道筋を作ったものであり、人口全体を代表したわけでも法律を作ったわけでもない、と注意を添えています[10]。
- AI に話し合いを任せてよいか。 タンは 2025 年の講演で、個人の意見を聞き取って AI の分身どうしに議論させる研究に触れ、話し合いを機械に任せるのは「ロボットをジムに行かせて代わりに重りを持ち上げさせる」ようなものだ、と述べました。集会は市民が自分で鍛える「ジム」だ、という位置づけです[9]。
Plurality の中での位置
書籍『Plurality』は 2-2 章「デジタル民主主義の日常」で、台湾の実践の一つとして Alignment Assemblies を挙げます。台湾は AI の土台となるモデルの規制と方向づけに市民の参加を呼びかける動きを先導し、それは世界でますます広がっている、と本は書きます。日本語版は「アライメント集会」、繁体中文版は「對齊大會」と訳しています[11][12]。くわしくは 台湾のデジタル民主主義 を見てください。
本の 7-0 章「政策」でも、人々が技術の決定に加われる道具の一つとして挙がります。日本語版はここでは「アライメント会議」と訳しています[13]。
本が出たあと、タンらの 6-Pack of Care は、この集会を「道具」の一つとして用語集に入れました[10]。集会で使う Polis や Talk to the City は、本の 拡張熟議 の中心的な例でもあります。社会の側を AI に備えさせるという点では、reverse alignment とも近い考え方です。
もっと知りたい人へ
- ブロードリスニング本 11.1「台湾」(日本語・本)— https://github.com/digitaldemocracy2030/broad-listening-book/blob/f69c60c838a91b91668abf109d7093b240610139/11_01_%E5%8F%B0%E6%B9%BE.md
- CIP「We should all get to decide what to do about AI」(英語・立ち上げの文章)— https://www.cip.org/blog/alignment
- moda「對齊大會 Alignment Assemblies」(中国語・公式ページ)— https://moda.gov.tw/major-policies/alignment-assemblies/1453
- CIP「Alignment Assemblies: Nine Months In」(英語・ふり返り)— https://www.cip.org/blog/alignment-assemblies-nine-months-in
- Collective Constitutional AI(英語・論文)— https://arxiv.org/abs/2406.07814
- タンの Right Livelihood 講演(英語・講演の逐語録)— https://archive.tw/2025-12-04-right-livelihood-lecture
出典
- CIP「We should all get to decide what to do about AI」(2023-05-23)— https://www.cip.org/blog/alignment
- moda「對齊大會 Alignment Assemblies」— https://moda.gov.tw/major-policies/alignment-assemblies/1453
- Collective Constitutional AI(arXiv 2406.07814)— https://arxiv.org/abs/2406.07814 [CC BY 4.0]
- moda「AI 未來民主化審議式工作坊」(2023)— https://moda.gov.tw/major-policies/alignment-assemblies/2023-ideathon/1459
- ブロードリスニング本 11.1「台湾」— https://github.com/digitaldemocracy2030/broad-listening-book/blob/f69c60c838a91b91668abf109d7093b240610139/11_01_%E5%8F%B0%E6%B9%BE.md [CC BY-NC 4.0]
- moda「運用 AI 促進資訊完整性」公民審議大會(2024)— https://moda.gov.tw/major-policies/alignment-assemblies/2024-deliberative-assembly/1521
- CIP「Alignment Assemblies: Nine Months In」(2023-11-16)— https://www.cip.org/blog/alignment-assemblies-nine-months-in
- 唐鳳と OpenAI の会合(2023-10-10)— https://archive.tw/2023-10-10-meeting-with-openai [CC0]
- 唐鳳 Right Livelihood 講演(2025-12-04)— https://archive.tw/2025-12-04-right-livelihood-lecture [CC0]
- 6-Pack of Care 用語集「Alignment Assembly」— https://civic.ai/glossary/ [CC0]
- 『Plurality』2-2「The Life of a Digital Democracy」— https://www.plurality.net/v/chapters/2-2/eng/ [CC0]
- 『Plurality』2-2「デジタル民主主義の日常」— https://www.plurality.net/v/chapters/2-2/jpn/ [CC0]
- 『Plurality』7-0「政策」— https://www.plurality.net/v/chapters/7-0/jpn/ [CC0]
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