Plurality の地図

g0v・vTaiwan の人々ってどんな人たち?

台湾のデジタル民主主義は、オードリー・タン一人の仕事ではありません。市民の技術者の集まり g0v や、市民参加の場 vTaiwan、デマ検証の Cofacts、マスク地図を動かした、市民ハッカー・公務員・研究者たちを紹介します。

書籍『Plurality』は台湾のデジタル民主主義を大きく取り上げます。けれども、それを動かしてきたのは大勢の人です。この記事では、本に名前が出てくる人と、本には名前がないけれど現場を担った人を、一人ずつ短く紹介します。

ひとことで言うと

g0v(零時政府)、vTaiwan、請願サイトの Join、デマを市民で検証する Cofacts、マスク地図。本が台湾の例として語るこれらは、多くの市民ハッカー(技術で社会に働きかける市民)、公務員、研究者の協力で動いてきました。g0v を立ち上げた一人、高嘉良(clkao)については 別の記事 があります。

Plurality とのかかわり

本の 2-1 章「玉山からの眺め」と 2-2 章「デジタル民主主義の日常」は、2014 年の ひまわり運動 の後、政府が g0v のやり方を認め、閣僚が若者を「リバース・メンター」(若い人が年上に教える役)に招き、政府の資料を g0v の場を通して公開していった流れを描いています[1][2]。

本の中で名前が出るのは、高嘉良、蔡玉玲、張善政、吳展瑋、そして 5-4 章の脚注に出る vTaiwan の論文の著者 2 人だけです[3]。ほかの人は本には名前がなく、実務や研究でかかわった人として紹介します。

主な人と考え

蔡玉玲(Jaclyn Tsai)— g0v を政府に招き入れた閣僚。 本は「デジタル参加を担当した世界で最初期の閣僚の一人」と呼びます[1]。ひまわり運動の後、蔡玉玲がタンを若者のリバース・メンターに招き、g0v の会合に出て支え、政府資料を g0v を通して公開していった、と本は書いています。これがタンの公職の始まりでした[1][2]。本人は 2017 年のタンとの対談で、Uber をどの省庁が受け持つかを決めるだけで時間がかかった、と話しています[4]。

張善政(Simon Chang)— 作り直し版を政府に取り込んだ閣僚。 g0v が作り直した政府サイトのほうが人気になり、張善政のような閣僚がそれを政府サービスに取り込み始めた、と本は書いています[2]。

吳泰輝 — g0v の共同発起人。 2012 年の政府の広告に怒り、高嘉良らと技術コンテストの題目を予算の見える化に変えた経緯を、報導者の取材に語っています[5]。

瞿筱葳(Ipa Chiu)— g0v の共同発起人。 中国語版ウィキペディアは発起人の一人に挙げています[6]。2019 年には総統杯ハッカソンの審査に加わりました[7]。

吳展瑋(Howard Wu)— マスク地図の開発者。 2020 年、新型コロナの初期にマスクが足りなくなったとき、政府のオープンデータを使ってマスクの在庫を地図にした市民ハッカーたちを率いました。本は、これで台湾は 2 月中旬までにマスクを広く行き渡らせることができた、と書いています[2]。

Cofacts の人々(李比鄰 Billion Lee、Johnson Liang)。 LINE に回ってくる噂を市民が確かめる「Cofacts 真的假的」の中心メンバーです[8][9]。本は Cofacts を g0v から生まれたプロジェクトとして紹介し、研究ではプロの事実確認より速く、同じくらい正確に応答できたと書いています。ただし人名は出てきません[2]。Johnson Liang は 2019 年のブログで、Cofacts は LINE のような閉じた SNS での誤情報を観察できる数少ないデータになっている、と書きました[9]。

蕭郁溏(Yu-Tang Hsiao)と林書漾(Shu-Yang Lin)— vTaiwan を回し、記録した人。 2018 年の論文「vTaiwan: An Empirical Study of Open Consultation Process in Taiwan」の第 1・第 2 著者で、本の 5-4 章がこの論文を引いています[10][3]。論文は vTaiwan の枠組み、使った道具、UberX の事例を記録しています。なお、論文には英語名しかなく、漢字の表記は議事録の発言者名からの推定です[10]。

林雨蒼(Billy Lin)— Join の会議の司会。 請願サイト Join で賛同を集めた提案を省庁と話し合う「協作会議」で司会を務めました[11]。

崔家瑋(Peter Cui)— いまの vTaiwan を支える人。 政府とのつながりが薄れた後の vTaiwan を支える中心人物です(日本の取材記事は「崔嘉偉」と書いています)[12]。2023 年には、vTaiwan の議論に Talk to the City を使う案を出しています[13]。

侯宜秀(Isabel Hou)— g0v の初期からの貢献者。 2022 年、デジタル発展部ができる前にタンを訪ね、「多元宇宙科」の名前などについて話した記録があります[14]。

李梅君(Mei-chun Lee)— g0v を研究した人。 2020 年の論文で、市民が紙の政治献金の報告書を手で打ち込んだ g0v のプロジェクトを取り上げ、データを「開く」協働そのものが新しい市民参加の形を生んだ、と論じています[15]。

どこが議論になっているか

vTaiwan は、いまも同じように動いているわけではありません。日本のデジタル民主主義2030 による現地取材で、関係者はこう振り返っています[12]。

もっと知りたい人へ

  1. 書籍『Plurality』2-2「The Life of a Digital Democracy」(英語・本。日本語版は「デジタル民主主義の日常」)— https://www.plurality.net/v/chapters/2-2/eng/
  2. 「現場取材からみえた台湾デジタル民主主義の理想と課題」(日本語・記事)— https://note.com/digitaldemocracy/n/naaa818d919c7
  3. 報導者「拆政府原地重建,零時政府3年躋身全球前3大黑客社群」(中国語・記事、2016)— https://www.twreporter.org/a/g0v-civic-tech-community
  4. 「唐鳳對談蔡玉玲:開放政府如何實現民意」(中国語・対談の記録、2017-01-14)— https://github.com/audreyt/transcript/blob/main/2017-01-14-%E5%94%90%E9%B3%B3%E5%B0%8D%E8%AB%87%E8%94%A1%E7%8E%89%E7%8E%B2%EF%BC%9A%E9%96%8B%E6%94%BE%E6%94%BF%E5%BA%9C%E5%A6%82%E4%BD%95%E5%AF%A6%E7%8F%BE%E6%B0%91%E6%84%8F.md
  5. 「vTaiwan: An Empirical Study of Open Consultation Process in Taiwan」(英語・論文、2018)— https://osf.io/preprints/socarxiv/xyhft

出典

  1. 『Plurality』2-1「A View from Yushan」— https://www.plurality.net/v/chapters/2-1/eng/ [CC0]
  2. 『Plurality』2-2「The Life of a Digital Democracy」— https://www.plurality.net/v/chapters/2-2/eng/ [CC0]
  3. 『Plurality』5-4「Augmented Deliberation」脚注 — https://www.plurality.net/v/chapters/5-4/eng/ [CC0]
  4. 「唐鳳對談蔡玉玲:開放政府如何實現民意」(2017-01-14)— https://github.com/audreyt/transcript/blob/main/2017-01-14-%E5%94%90%E9%B3%B3%E5%B0%8D%E8%AB%87%E8%94%A1%E7%8E%89%E7%8E%B2%EF%BC%9A%E9%96%8B%E6%94%BE%E6%94%BF%E5%BA%9C%E5%A6%82%E4%BD%95%E5%AF%A6%E7%8F%BE%E6%B0%91%E6%84%8F.md [CC0]
  5. 報導者「拆政府原地重建,零時政府3年躋身全球前3大黑客社群」(2016-05-17)— https://www.twreporter.org/a/g0v-civic-tech-community [CC BY-NC-ND 3.0]
  6. 中国語版ウィキペディア「g0v零時政府」— https://zh.wikipedia.org/zh-tw/G0v%E9%9B%B6%E6%99%82%E6%94%BF%E5%BA%9C [CC BY-SA 4.0]
  7. 総統盃ハッカソン初選審査会議(2019-05-02)— https://sayit.archive.tw/2019-05-02-%E7%B8%BD%E7%B5%B1%E7%9B%83%E9%BB%91%E5%AE%A2%E6%9D%BE%E5%88%9D%E9%81%B8%E8%A9%95%E5%AF%A9%E6%9C%83%E8%AD%B0 [CC0]
  8. 講演動画「Ms. Billion Lee: Cofounder of the Cofacts」(Taiwan Ecumenical Forum のウェビナー、2023)— https://www.youtube.com/watch?v=xCoV9hU2LlU
  9. Johnson Liang「2019 第一天,來看看兩歲的 Cofacts」— https://medium.com/cofacts/2019-%E7%AC%AC%E4%B8%80%E5%A4%A9-%E4%BE%86%E7%9C%8B%E7%9C%8B%E5%85%A9%E6%AD%B2%E7%9A%84-cofacts-d2330f01727b
  10. Hsiao, Lin ほか「vTaiwan: An Empirical Study of Open Consultation Process in Taiwan」(2018)— https://osf.io/preprints/socarxiv/xyhft [CC BY 4.0]
  11. 【兒虐死刑案】協作會議 會前會(2019-03-28)— https://sayit.archive.tw/2019-03-28-%E3%80%90%E5%85%92%E8%99%90%E6%AD%BB%E5%88%91%E6%A1%88%E3%80%91%E5%8D%94%E4%BD%9C%E6%9C%83%E8%AD%B0-%E6%9C%83%E5%89%8D%E6%9C%83 [CC0]
  12. デジタル民主主義研究ユニット「現場取材からみえた台湾デジタル民主主義の理想と課題」— https://note.com/digitaldemocracy/n/naaa818d919c7
  13. Conversation with Vehbi Deger Turan, Isabel Hou, Jia-Wei Cui(2023-11-03)— https://github.com/audreyt/transcript/blob/main/2023-11-03-Conversation-with-Vehbi-Deger-Turan,-Isabel-Hou,-Jia-Wei-Cui.md [CC0]
  14. Isabel Hou 來訪(2022-07-20)— https://sayit.archive.tw/2022-07-20-isabel-hou-%E4%BE%86%E8%A8%AA [CC0]
  15. Mei-chun Lee「Free the Data from the Birdcage」(PoLAR、2020)— https://doi.org/10.1111/plar.12371

記事の間違いや、知りたいこと(「〜ってなに?」)を受け付けています。送られた内容は公開の issue になります。

この記事の間違いを知らせる ・ 質問する