Plurality の地図

g0v(零時政府)ってなに?

2012 年に台湾のプログラマーたちが始めた、市民のオープンソース・コミュニティです。政府のサイトを自分たちで「作り直して」見やすく公開し、定期的なハッカソンで市民の問題に取り組みます。vTaiwan、マスク地図、Cofacts などを生みました。

役所のウェブサイトが分かりにくくて、欲しい情報にたどり着けない。そんな経験は多くの人にあるでしょう。台湾では、それに不満を持ったプログラマーたちが、文句を言うだけでなく、自分たちで分かりやすい版を作ってしまいました。その集まりが g0v(ガブゼロ、零時政府)です。

ひとことで言うと

g0v は、台湾のプログラマー・デザイナー・記者・市民が集まるボランティアのコミュニティです。政府の情報を誰にでも分かる形にしたり、社会の問題を解く道具を作ったりしています[1][2]。

名前は、台湾の政府のウェブサイトの住所(ドメイン)の末尾「gov.tw」の「o」を「0(ゼロ)」に替えたものです[1]。「ゼロから政府を考え直す」という意味もこめられています[2]。

たとえば

政府予算の見える化(2012 年)。 g0v の公式の紹介によると、2012 年 10 月、ネット企業のハッカソン(短い期間で集中してものを作る催し)の前夜のことでした[2]。社会問題に関心のある IT の人たちが、政府の経済政策の広告に不満を持ちました。そこで作るテーマを急に変えて、国の予算全体を図で見えるようにするサイトを 3 日で作りました[2]。

中国語版ウィキペディアによると、この作品は入賞し、高嘉良(Chia-liang Kao)、吳泰輝、瞿筱葳らが賞金の残りで次のハッカソンを開き、g0v が始まりました[3]。公式の紹介は、そのハッカソンを 2012 年 12 月 1 日とし、ここでコミュニティが正式に動き出したとしています[2]。サイトを置くために高嘉良が取ったのが、「gov.tw」と 1 文字違いの「g0v.tw」でした[4]。

ひまわり運動の中継(2014 年)。 2014 年、学生たちが台湾の国会にあたる立法院を占拠しました。書籍『Plurality』によると、その間、g0v の数百人がその場で中継・記録・情報の伝達を担いました[1]。

『ブロードリスニング』という本は、イベント設営の技を持つ g0v のチームを中心に、100 人以上が中継に関わったと書いています[4]。のちのデジタル大臣オードリー・タン(Audrey Tang)が 350 メートルの LAN ケーブルを敷いた話も、一人の英雄の話ではなく、大勢の市民の力でできたことだった、というのです[4]。

辞書アプリ「萌典」など。 本の脚注によると、g0v の初期のプロジェクトである中国語辞典「萌典(MoeDict)」は、タンが率いました[1]。g0v から生まれたものとして、中国語版ウィキペディアは、萌典のほか、ファクトチェック(事実確認)の Cofacts、選挙の投票ガイドなどを挙げています[3]。

しくみ

フォークとマージ

本によると、g0v の市民ハッカーは、政府のサイトからデータを取り出し、同じ内容を別の見せ方で g0v.tw に置きました[1]。ソフトウェアの言葉で、元から枝分かれさせることを「フォーク」と言います。

このフォーク版は、しばしば本家より人気になりました[1]。すると、張善政(Simon Chang)らの閣僚が、そのデザインを政府のサービスに取り込み始めました[1]。これを「マージ(合流)」と言います。

イーサリアムの創始者ヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)は書評で、このやり方に注目しています[5]。小さく枝分かれして生まれた改良が、社会の本流に取り込み直される。その素早いくり返しが、タンとワイルの構想の特徴だ、とブテリンは論じています[5]。

「あなたがその『誰も』だ」

本は、g0v のハッカソンの特徴を三つ挙げます[1]。参加者が多様であること(たいてい半分以上がプログラマーではなく、男女ほぼ同数)。もうけではなく市民の問題に向かうこと。市民団体と密に協力すること、です。

本はそれを、g0v のスローガンにまとめています[1]。英語版では「Ask not why nobody is doing this. You are the 'nobody'!」。「なぜ誰もやらないのか、と問うな。あなたがその『誰も』なのだ」という意味です。そのため g0v は「nobody 運動」とも呼ばれます[1]。g0v の公式 FAQ は、参加者の 3〜4 割がプログラミングをしない人だと書いています[6]。

中心がない、党派がない

2019 年に改められた g0v の宣言は、g0v に一つの中心・代表・責任者はないとしています[7]。参加者は自分で関わるプロジェクトを選んだり始めたりでき、プロジェクトごとに運営のしかたを決めます[7]。成果は誰でも使える形で公開し、g0v は党派に属さない、営利を目的としない、草の根の市民運動だとしています[7]。

公式 FAQ は、「反政府の組織なのか」「ウィキリークスのようなものか」という問いに答えています[6]。g0v は政府がすでに出している情報を使いやすく見せ、データを開く政策を後押しするもので、秘密を暴く活動とは目的もやり方も違う、という答えです[6]。

三つの円

本は g0v の原則を、三つの円が重なる図で示します[1]。「オープンソース」「実際に手を動かす」「公共の精神」の三つです。そのまん中に g0v がある、という図です[1]。

規模

中国語版ウィキペディアは、42 回以上のハッカソン、三つの大陸にまたがる 8,000 人以上の貢献者と書いています[3]。『ブロードリスニング』本は、チャットの場(Slack)の参加者を 1 万 4 千人以上としています[4]。

どこが議論になっているか

Plurality の中での位置

g0v は、本の 2-2 章「デジタル民主主義の日常」の最初の事例です。本は、ほかのどの組織にもまして g0v が、台湾のデジタル民主主義を市民の側から支える土台を象徴する、と書いています[1]。この章で取り上げる取り組みの大半は、g0v とその周りから生まれました[1]。

本の 3-3 章は、g0v が議事録などを共同で編集するツール HackMD を、開かれた協働の例に挙げています[11]。そして、ほかの国のシビックテック(市民による公共のための技術)は、g0v が台湾で持ったような全国規模の影響を持ちにくかった、としています[11]。

関連する記事: - 台湾のデジタル民主主義 — g0v が土台になった全体像 - vTaiwan — g0v が作った、政策を話し合う場 - Cofacts — g0v から生まれたファクトチェック - Community Notes — 市民による事実確認の近い例 - シビックテック・高嘉良・g0v・vTaiwan の人々

もっと知りたい人へ

  1. 書籍『Plurality』2-2「デジタル民主主義の日常」の「零時政府/g0v」節(日本語・本)— https://www.plurality.net/v/chapters/2-2/jpn/
  2. 『ブロードリスニング』11-1「台湾」の「台湾零時政府g0v」節(日本語・本)— https://github.com/digitaldemocracy2030/broad-listening-book/blob/f69c60c838a91b91668abf109d7093b240610139/11_01_%E5%8F%B0%E6%B9%BE.md
  3. G0v零時政府(中国語版ウィキペディア)— https://zh.wikipedia.org/zh-tw/G0v%E9%9B%B6%E6%99%82%E6%94%BF%E5%BA%9C
  4. g0v の公式の紹介・宣言・FAQ(中国語)— https://github.com/g0v/g0v.tw/blob/master/md/zh-tw/about/about.md ・ https://github.com/g0v/g0v.tw/blob/master/md/zh-tw/about/manifesto.md ・ https://github.com/g0v/g0v.tw/blob/master/md/zh-tw/about/faq.md
  5. 報導者「拆政府原地重建,零時政府3年躋身全球前3大黑客社群」(2016、中国語・報道)— https://www.twreporter.org/a/g0v-civic-tech-community
  6. 高嘉良「寫在 g0v summit 2018 之前」(中国語・エッセイ)— https://medium.com/@clkao/%E5%AF%AB%E5%9C%A8-g0v-summit-2018-%E5%89%8D-5869b6afe462

出典

  1. 『Plurality』2-2「The Life of a Digital Democracy」の g0v・Sunflower の節、図 2-2-A、脚注 — https://www.plurality.net/v/chapters/2-2/eng/ [CC0]
  2. g0v 公式の紹介 — https://github.com/g0v/g0v.tw/blob/master/md/zh-tw/about/about.md
  3. G0v零時政府(中国語版ウィキペディア)— https://zh.wikipedia.org/zh-tw/G0v%E9%9B%B6%E6%99%82%E6%94%BF%E5%BA%9C [CC BY-SA 4.0]
  4. 『ブロードリスニング』11-1「台湾」— https://github.com/digitaldemocracy2030/broad-listening-book/blob/f69c60c838a91b91668abf109d7093b240610139/11_01_%E5%8F%B0%E6%B9%BE.md [CC BY-NC 4.0]
  5. Vitalik Buterin「Plurality philosophy in an incredibly oversized nutshell」節「What are the megapolitics of Plurality?」— https://vitalik.eth.limo/general/2024/08/21/plurality.html
  6. g0v 公式 FAQ — https://github.com/g0v/g0v.tw/blob/master/md/zh-tw/about/faq.md
  7. g0v 宣言(2019 年改訂)— https://github.com/g0v/g0v.tw/blob/master/md/zh-tw/about/manifesto.md
  8. 高嘉良「寫在 g0v summit 2018 之前」(2018-09-30)— https://medium.com/@clkao/%E5%AF%AB%E5%9C%A8-g0v-summit-2018-%E5%89%8D-5869b6afe462
  9. Nick Aspinwall「Taiwan Tried to Digitize Democracy With vTaiwan. It Was a Huge Flop」(The Daily Beast、2023-11-01)— https://www.thedailybeast.com/taiwan-tried-to-digitize-democracy-with-vtaiwan-it-was-a-huge-flop/
  10. 李梅君「Free the Data from the Birdcage」(PoLAR、2020、抄録)— https://doi.org/10.1111/plar.12371
  11. 『Plurality』3-3「The Lost Dao」小節「Nodes of light」— https://www.plurality.net/v/chapters/3-3/eng/ [CC0]

記事の間違いや、知りたいこと(「〜ってなに?」)を受け付けています。送られた内容は公開の issue になります。

この記事の間違いを知らせる ・ 質問する