Plurality の地図

ラトビアでの Plurality の広がりってなに?

ラトビアでは書籍『Plurality』の訳も、タンやワイルの報道も見つかりません。重なるのは、1 万筆で議会に届く市民発議サイト ManaBalss.lv、リガにある NATO の偽情報対策の拠点、台湾との往来という三つの文脈です。

選挙は数年に一度しかありません。そのあいだ、ふつうの市民が政治に声を届けるには、どうすればよいでしょうか。バルト三国の一つラトビアには、ネットで署名を集めて議会に案を出すしくみが、15 年前からあります。オードリー・タン(Audrey Tang)とグレン・ワイル(E. Glen Weyl)の書籍『Plurality』が扱う問題と重なりますが、ラトビアでこの本が語られた形跡は、まだ見つかっていません。

ひとことで言うと

この記事のための調査では、『Plurality』のラトビア語訳は見つかりませんでした。タンやワイルを取り上げたラトビア語の報道も、Google News(ラトビア語)では 0 件でした(このサイトによる 2026 年 10 月の暫定の数え)[1]。タンの対話の書き起こしを全文で検索しても、ラトビアに触れたものは見つかっていません。

そのかわり、本と重なる文脈が三つあります。1 万人の署名で議会に届く市民発議のサイト ManaBalss.lv(マナバルス、「私の声」)[2]、リガにある NATO の戦略的コミュニケーションの研究拠点(StratCom COE)の偽情報対策[7]、そして「一つの中国」の政策のもとでの台湾との往来です[10]。

たとえば

ManaBalss.lv(私の声)。 lv 版 Wikipedia によると、16 歳以上のラトビア市民なら誰でも、法律を変える発議を出したり、署名したりできます。1 万人以上が署名し、法的な条件を満たした発議は、議会(Saeima)に出されます。本人確認には、ラトビアのネットバンク、国際的な支払いカード、電子の身分証(eID)を使います[2]。

運営側の 15 周年の発表(2026 年 6 月)は、118 件の市民発議が議会の支持を得て法を変えた、としています。その中には、議会での大統領の選出を公開の投票にした 2019 年の憲法の改正も入っています。運営側は、デジタル民主主義の道具で憲法が変わった例は、知られている限り世界でこれだけだ、と述べています[3]。

存続を求める発議(2026 年)。 ManaBalss.lv は寄付で成り立ってきましたが、寄付は近年大きく減りました。そこで運営チームは、議会に恒常的な資金の仕組みを求める発議を、自分たちのサイトに出しました。jauns.lv によると、この発議は 2026 年 9 月に 1 万筆を超えました(無効な署名に備えて 10,300 筆を目指しており、それにはまだ届いていませんでした)。議会は前年の 12 月 4 日、翌年の予算を決める際に、ManaBalss.lv に 15 万ユーロを充てる案を支持していました[4]。

リガの NATO StratCom COE。 この研究拠点は 2014 年からリガにあり、ラトビア・エストニア・イタリア・英国・リトアニア・ポーランド・ドイツの 7 か国が作りました。会議の初日に出た通信社 LETA の記事によると、毎年の会議「Riga StratCom Dialogue」は 2022 年で 6 回目で、ロシアによる偽情報への対抗や、誤った情報に対する社会の強さなどを扱う予定でした[7]。

くわしく

市民発議の制度

LV portāls(2024 年)によれば、議会に「kolektīvais iesniegums」(集団の申し立て)を出す権利は、2012 年 2 月 2 日に施行された議院規則の改正で定められました。それまでは、市民が議会に案件を持ち込む道は、国民投票しかありませんでした[5]。

規則は、16 歳以上の市民 1 万人以上による提出を認めています。署名は、本人確認とデータの保護ができれば、電子的に集めてよいことになっています。2023 年からは、自治体にも同じしくみができました[5]。シンクタンク Providus の Iveta Kažoka は、議会が採らない場合でも、すべての申し立てをまじめに検討することが大切だ、と述べています[5]。

数え方と評価の違い

実績の数は、資料ごとに違います。運営側の 15 周年の発表は、118 件が法を変えたとしています[3]。jauns.lv の記事は、140 件を超える発議が議会に届き、83 件が法になった、とします[4]。

2021 年には、安楽死の合法化を求める発議の扱いをめぐって、議会で議論がありました。担当の委員会の委員長 Janīna Kursīte-Pakule は、1 万人という数がちょうどよいのかを、もっと広く議論すべきだと述べました。一部の発議は理屈ではなく感情にもとづいている、とも話しています。ただしこれには「vismaz man pašai tā šķiet」(少なくとも自分にはそう思える)と添えたうえで、サイトそのものは全体として肯定的に評価しました[6]。

運営団体の長の Imants Breidaks は、サイトが無くなれば、市民が政治に影響できるのは「reizi četros gados」(4 年に一度)の選挙だけになる、と訴えています[4]。

偽情報対策と Community Notes

LSM(2026 年 6 月)によれば、StratCom COE の所長 Jānis Sārts は、西側への情報戦では、守るだけでなく攻めに転じる必要がある、という考えを示しました。そのことについて議論を始めよう、とも話しています。同じ記事で、研究者の Halina Padalko は、学校・大学・NGO から地域の共同体を強めることの大切さを語りました[8]。

Meta が、利用者どうしで投稿に注記をつける Community Notes に移る件は、Kursors(2025 年 3 月)が伝えました。記事は Meta の説明として、異なる見方を持つ人どうしが役に立つと合意したときにだけ注記を公開する、と紹介しました。あわせて、X での研究では、このしくみが誤った情報の広がりを止めきれていない、という専門家の警告も伝えています[9]。→ コミュニティノート・ブリッジング

台湾との往来

2023 年 11 月、台湾の外交部長(外務大臣)が、リガのストラディンシュ大学で講演する予定でした。LSM の取材に、ラトビア外務省は、1994 年に中国と交わした共同コミュニケにもとづいて「一つの中国」の政策を守っている、と答えました。そのため政府は台湾と公式の接触を持たず、政府の代表が部長と会う予定もない、としています。一方、議会の外務委員長 Rihards Kols は、部長と会う予定だと述べ、議員が会うことは政策に反しないと話しました[10]。

lt 版 Wikipedia は、ラトビアが 1992〜93 年に、中華人民共和国と中華民国(台湾)の両方を承認したと書いています[11]。リガの台北代表処の長は、2021 年にリトアニアで開いた台湾の代表処の長も兼ねました[12]。→ リトアニアでの Plurality の広がり

Re:Baltica の調査報道(2019 年)は、バルト三国での中国のソフトパワー(文化や外交を通じた影響力)の主な狙いを、ダライ・ラマとの接触を妨げることと、台湾にもチベットにも主権を認めない「viena Ķīna, divas sistēmas」(一つの中国、二つの制度)の世界観を広めることだ、と見ています。例として、2015 年に議会の外務委員長だった Ojārs Ēriks Kalniņš が、中国大使の抗議の電話を受けて、同僚にチベットの代表を議会に迎えないよう説得しようとしたことを挙げています。Kalniņš 本人は Re:Baltica に、これは脅しではなく外交だと述べました[13]。

どこが議論になっているか

Plurality の中での位置

ラトビアの資料は、本にも、本の人物にも触れていません。それでも、いくつかの点で本の議論と重なります。

ManaBalss.lv は、デジタル民主主義 と シビックテック の実例です。運営側は議会に、「digitālās demokrātijas infrastruktūrai」(デジタル民主主義のインフラのための)恒常的な資金の仕組みを求めました。公共メディアのように、公費を受けながら編集の独立を保つ形を例に挙げています[4]。これは、本の デジタル公共インフラ の議論と重なります。

Community Notes の報道は、異なる見方の人の合意を重んじるという、コミュニティノート と ブリッジング の考え方を伝えています[9]。ただし、これらを Plurality と結びつけた資料は、今回は見つかりませんでした。

ほかの国・地域の記事:

もっと知りたい人へ

  1. lv 版 Wikipedia「ManaBalss.lv」(ラトビア語・事典)— https://lv.wikipedia.org/wiki/ManaBalss.lv
  2. LV portāls「Kolektīvie iesniegumi – veids, kā sabiedrībai iesaistīties valsts politikas veidošanā」(ラトビア語・記事)— https://lvportals.lv/norises/360050-kolektivie-iesniegumi-veids-ka-sabiedribai-iesaistities-valsts-politikas-veidosana-2024
  3. ManaBalss.lv の 15 周年の発表(ラトビア語・記事)— https://manabalss.lv/articles/manabalss-svin-15-gadu-jubileju-118-pilsonu-iniciativas-panakusas-izmainas-latvijas-likumos
  4. LSM「台湾の外交部長のリガ訪問」(ラトビア語・記事)— https://www.lsm.lv/raksts/zinas/latvija/07.11.2023-taivanas-arlietu-ministra-vizitei-riga-atsaucas-saeimas-arlietu-komisijas-vaditajs-kols-valdibas-parstavji-netiksies.a530510/
  5. Re:Baltica「Ķīnas maigās varas rupjā seja」(ラトビア語・調査報道)— https://rebaltica.lv/2019/08/kinas-maigas-varas-rupja-seja/

出典

  1. pluralitybook/plurality の fork 一覧と、GitHub・Google News(ラトビア語)での照会(2026-10-02)— https://github.com/pluralitybook/plurality/forks [CC0]
  2. lv 版 Wikipedia「ManaBalss.lv」— https://lv.wikipedia.org/wiki/ManaBalss.lv [CC BY-SA 4.0]
  3. ManaBalss.lv「ManaBalss svin 15 gadu jubileju: 118 pilsoņu iniciatīvas panākušas izmaiņas Latvijas likumos」(2026-06-08)— https://manabalss.lv/articles/manabalss-svin-15-gadu-jubileju-118-pilsonu-iniciativas-panakusas-izmainas-latvijas-likumos
  4. jauns.lv「Savākti vairāk nekā 10 000 parakstu platformas "Mana balss" turpmākai pastāvēšanai」(2026-09-11)— https://jauns.lv/raksts/zinas/728341-savakti-vairak-neka-10-000-parakstu-platformas-mana-balss-turpmakai-pastavesanai
  5. LV portāls「Kolektīvie iesniegumi – veids, kā sabiedrībai iesaistīties valsts politikas veidošanā」(2024-02-07)— https://lvportals.lv/norises/360050-kolektivie-iesniegumi-veids-ka-sabiedribai-iesaistities-valsts-politikas-veidosana-2024
  6. LV portāls「10 tūkstoši parakstu – daudz vai maz?」(2021-03)— https://lvportals.lv/viedokli/326546-10-tukstosi-parakstu-daudz-vai-maz-2021
  7. Sargs.lv「Rīgā norisināsies konference "Riga StratCom Dialogue"」(2022-05-25、LETA)— https://www.sargs.lv/lv/sabiedriba/2022-05-25/riga-norisinasies-konference-riga-stratcom-dialogue
  8. LSM「NATO izcilības centra direktors: Informācijas karā Rietumiem ir jāpāriet uzbrukumā」(2026-06-03)— https://www.lsm.lv/raksts/zinas/arzemes/03.06.2026-nato-izcilibas-centra-direktors-informacijas-kara-rietumiem-ir-japariet-uzbrukuma.a649988/
  9. Kursors「“Meta” savās platformās nākamnedēļ sāks testēt jauno faktu pārbaudes sistēmu」(2025-03-15)— https://kursors.lv/2025/03/15/meta-savas-platformas-nakamnedel-saks-testet-jauno-faktu-parbaudes-sistemu/
  10. LSM「Taivānas ārlietu ministra vizītei Rīgā atsaucas Saeimas Ārlietu komisijas vadītājs Kols; valdības pārstāvji netiksies」(2023-11-07)— https://www.lsm.lv/raksts/zinas/latvija/07.11.2023-taivanas-arlietu-ministra-vizitei-riga-atsaucas-saeimas-arlietu-komisijas-vaditajs-kols-valdibas-parstavji-netiksies.a530510/
  11. lt 版 Wikipedia「Lietuvos ir Taivano santykiai」— https://lt.wikipedia.org/wiki/Lietuvos_ir_Taivano_santykiai [CC BY-SA 4.0]
  12. 15min「Taivaniečių atstovybė Lietuvoje pradeda darbą」(2021-11-18)— https://www.15min.lt/naujiena/aktualu/lietuva/taivanieciu-atstovybe-lietuvoje-pradeda-darba-56-1599582
  13. Re:Baltica「Ķīnas maigās varas rupjā seja」(2019-08-20)— https://rebaltica.lv/2019/08/kinas-maigas-varas-rupja-seja/

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