AI 政党・デジタル政党にはどんなものがある?
インターネットや AI(人工知能)を使えば、政治にもっと多くの人が加われるのではないか。そう考えて生まれた政党が、各地に現れています。ただ、同じ「技術で政治を開く」でも、何を目指し、技術をどう使うかは党によってかなり違います。この記事では、資料のある三つの流れを並べ、それぞれについて誰が何と言っているかを紹介します。どの党がよいかを判断する記事ではありません。
ひとことで言うと
この記事で扱うのは、次の三つの流れです。
- 欧州の「デジタル政党」: イタリアの五つ星運動(Movimento 5 Stelle、M5S)、スペインの Podemos、ドイツなどの海賊党です。オンラインの仕組みで党員が「直接」決めることを掲げました[1][2]。
- デンマークの The Synthetic Party: AI のチャットボットを党の顔にし、小さな政党の文章で学習した言語モデルに、選挙に行かない人々を「代表」させると説明しています[3][4]。
- 日本の チームみらい: AI エンジニアの安野貴博が 2025 年に作った政党です。人間の議員を立てたうえで、AI を有権者の声の聞き取りなどに使っています[5][6]。
たとえば
五つ星運動の Rousseau。 五つ星運動は、Rousseau というオンラインの仕組みで、党員に候補者や方針を投票させてきました。研究者のマルコ・デゼリイス(Marco Deseriis)は 2017 年の論文で、党の指導部は Rousseau を直接民主主義の先駆的な実験("a pioneering experiment in direct democracy")として示している、と書いています[2]。この仕組みをめぐるイタリアでの議論は イタリアでの Plurality の広がり で紹介しています。
The Synthetic Party の Leader Lars。 2022 年に作られたデンマークの党で、顔はチャットボットの Leader Lars です。人々はチャットのサービス Discord で Leader Lars と話せます[3]。2022 年の総選挙では、立候補に要る署名が 2 万人分に届かず(党の記録では 21 人分)、投票用紙に載りませんでした[4]。
チームみらいの「しゃべれるマニフェスト」。 2025 年の参院選で、有権者が AI と対話してマニフェスト(公約)への提案を出せる仕組みを使いました。党はこの選挙で 1 議席を得ています[5]。
くわしく
1. 「直接」決めるのか、「代表」を組み替えるのか
デジタル政党。 研究者のパオロ・ジェルバウド(Paolo Gerbaudo)は 2019 年の論文で、五つ星運動と Podemos のオンラインの意思決定を調べました。五つ星運動のダヴィデ・カザレッジョ(Davide Casaleggio)は、こうした仕組みによって党員は委任に甘んじず完全な参加を目指せる、という趣旨のことを語っていました[1]。ジェルバウドの結論は、実際の運用は "strongly plebiscitary and top-down"(強く国民投票型で、上意下達)だった、というものです。党員の参加は、上で決まったことを追認する「reactive democracy(反応するだけの民主主義)」にとどまりがちだった、と書いています[1]。
ジェルバウドによると、オンラインの投票はほとんどが 80% を超える圧倒的多数で終わりました。Podemos では指導部の意向に反した投票が一度もなく、五つ星運動でも党員が指導部に反したのは 2 回だけでした[1]。これについて、五つ星運動で Rousseau の運営に関わったダヴィデ・ボーノ(Davide Bono)は、運動の集団としての一体感が強く、要点で意見がよく一致するからだ、と説明しています。ジェルバウドは、それに加えて、投票の時期や問いの立て方などを通じた指導部の影響もある、と書いています[1]。
デゼリイスは 2017 年の論文で、五つ星運動の構想は、突き詰めれば「すべての政党の廃止(the abolition of all political parties)」を伴うデジタルの直接民主主義だと紹介しました[2]。そのうえで Rousseau の実際は、党員が議員と直接つながっているように見える一方、話し合って選択肢を作る段階は議員と党の幹部の手に残り、党員は別の場所で決まった選択肢から選ぶ「direct parliamentarianism(直接議会主義)」だ、と分析しています[2]。
ドイツの海賊党は、LiquidFeedback という仕組みを使いました。自分の票をほかの人に預けられる「委任型」の投票(リキッド・デモクラシー)です。委任を多く集める「スーパー投票者」が生まれると民主的な過程が損なわれる、という反対論がありました。クリストフ・クリング(Christoph Kling)らの 2015 年の分析は、スーパー投票者の理論上の力は確かに大きいが、多くの場合は多数派と同じ側に投票しており、仕組みを安定させる働きをしていた、と報告しています[7]。
The Synthetic Party。 この党が掲げるのは直接の投票ではなく、代表のしかたの組み替えです。創設者のアスカー・ブリュル・スタウネス(Asker Bryld Staunæs)は、小さな政党の文章で学習した言語モデルが、投票しない人々の声を代弁できるのではないか、という仮説を「algorithmic representation(アルゴリズムによる代表)」と呼びました[4]。選挙に勝ったときは、Leader Lars を代表する人間が投票用紙に載り、AI の「媒介者」として振る舞う、と説明しています[3]。スタウネスと研究者ミハル・マリー(Michal Malý)の「synthetic chamber」の案も、議会に常設の、権限の上では補助的な機関を置くという構想です。人間の判断を AI に置きかえるのではなく、複数の AI を使って、組織された市民の熟議から出た理由を整理し、保ち、代議制の中へ届けるとしています[8]。
チームみらい。 2024 年の東京都知事選で、安野陣営は GitHub(文書の変更を提案・記録できるサービス)にマニフェストを置き、有権者からの変更提案を受けました。GitHub 担当のスタッフは選挙のあとの振り返りで、これを直接民主制のツールとして使うのは難しいと書いています。価値の判断を含む議題で GitHub 上の合意に至るのは難しく、多くの提案を統合できたのは安野が最終的な決定権を一元的に持っていたからだ、という説明です。同じ記事は、政策をめぐる双方向のやりとりや熟議の手段としては役に立った、とも書いています[9]。
党首の安野は 2026 年 7 月の会見で、党のデジタル民主主義は AI が政治を決めることではなく、AI によって一人でも多くの人が政治に参加し、その声が政策になり、結果まで確かめられる政治をつくることだ、と説明しました[6]。
2. 誰が率いるのか
ジェルバウドは著書『The Digital Party』(2019 年)で、ネットの仕組みを土台にした「プラットフォーム政党」には、名前と姿がネットで広まるカリスマ的な「hyperleader(ハイパーリーダー)」と、指導部の呼びかけに反応する党員の「superbase(スーパーベース)」が生まれ、両者が直接つながって中間の幹部が消えていく、と論じました。これは、デゼリイスの 2020 年の書評論文による要約です[10]。同じ書評によると、ジェルバウドは、約束と現実の隔たりは少しの手直しで埋められるかもしれない、とも見ています[10]。
デゼリイスは、これとは別の型として「networked party(ネットワーク型の政党)」を立てました。スウェーデン・ドイツ・アイスランドの海賊党や、バルセロナの市民の政党 Barcelona en Comú などです。そこでは党員が議題の設定から話し合い・投票までの段階に加わり、指導的な役割は上からの任命ではなく下からの分業で生まれる傾向がある、と書いています。理念の上では、こちらのほうが党内の民主主義の質が高く見える、という見方です[10]。
The Synthetic Party は、党の顔を AI にしました。スタウネスは、ニュージーランドの SAM のように AI を人間に見立てた「仮想政治家」は、客観的な候補者を装うことで権威的になる、と批判します。党が重んじるのは、中心に AI を置くことよりも、人間が AI をどう使えるかだ、という説明です[3]。
チームみらいの党首は人間の安野です。マリーらの 2026 年の論文は、世界の AI の候補者・政党 10 例を比べ、都知事選の「AI あんの」から始まったチームみらいを、正式な政党の地位と組織を持つ、10 例の中で最も組織が整った例としました。論文は、AI は新しい党が幅広い有権者に訴えるのを助けた道具の一つだった、と書いています。チームみらいは 2025 年に参議院で 1 議席、2026 年に衆議院で 11 議席を得ました[11]。
3. 技術ポピュリズムという見方
研究者のクリストファー・ビッカートン(Christopher Bickerton)とカルロ・インヴェルニッツィ・アッチェッティ(Carlo Invernizzi Accetti)は、専門知に訴えることと「人民」に訴えることを組み合わせる「technopopulism(技術ポピュリズム)」を、左右の対立に重なる新しい政治の論理と定義しました。例として、五つ星運動とフランスの La République En Marche を挙げています[12]。
The Synthetic Party について、党の側が載せた背景の文書は、党が自らを "techno-populist, transhumanist and a defender of radical democracy"(技術ポピュリストで、トランスヒューマニストで、急進的な民主主義の擁護者)と位置づけている、と報道を引いて書いています[13]。ただしこの文書は体裁が AI の調査出力に似ており、細部はもとの報道で確かめる必要があります。
どこが議論になっているか
- 「直接」の中身。 上で見たように、ジェルバウドとデゼリイスは、デジタル政党が掲げた直接参加と、実際の運用との隔たりを指摘しています[1][2]。これに対し、五つ星運動の関係者は党員の意見がもともとよく一致することを理由に挙げています[1]。五つ星運動の投票の仕組みをめぐるイタリアでの議論は、イタリアでの Plurality の広がり の記事にあります。
- 委任の集中。 委任型の投票では力が一部の人に集まるという反対論があり、クリングらはドイツ海賊党のデータで、スーパー投票者の力は大きいが、多くは多数派と同じ側に投票していたと報告しました[7]。
- AI の候補者の責任。 マリーらは、AI と市民と裏方の設計者の三者の関係では、設定を実際に握る設計者が組織の上では見えず、AI の人格は法的な責任を負わない、と指摘しています[11]。The Synthetic Party の側は、選挙に出るのは人間で、その人が AI の媒介者になると説明しています[3]。
- チームみらいへの批判。 マリーらは、AI の政治主体は政党が市民と政治をつなぐという前提そのものに挑んでいると論じ、最も制度の整ったチームみらいでも、AI の側面は組織の付け足しではなく、代表を名乗ることの土台になっている、と書いています[11]。集めた提案が実際どれだけ使われたか、支持層の偏りなど、ほかの外部からの指摘と党の説明は チームみらい の記事にまとめています。
- 書き手の立場。 マリーはスタウネスの共著者で、マリーらの論文の 10 例のうち 7 例は、スタウネスが開いた展覧会 Synthetic Summit の参加者から選ばれています[11]。次の節の西尾泰和は、スタウネスとマリーの記録で"one of Team Mirai's principal technical contributors"(チームみらいの主な技術面の貢献者の一人)と紹介されている人です[14]。
当事者どうしの対話
西尾泰和は 2026 年 9 月の講演資料で、スタウネスと議論した結果、ヨーロッパのそれらの政党は直接民主制を善とするものがほとんどだと感じた、と書いています。一方でチームみらいは「直接民主制を実現する」と公約したことは「ないはず」で、そこが彼らには意外だったらしい、とも書きます。西尾は、これは自分の記憶で、講演は党としての意見ではないと断っています[15]。
同じ資料で西尾は、自分の考えとして、多数決は「足し算」しかできなかった時代の、問題の多い集約のしかたにすぎない、と述べています。ほとんどの人はほとんどの議題に関心がないので、直接民主制で賛否を決めると、メディアや SNS の雰囲気で決まってしまう。AI によって、意見のある人の意見を「意見のない人と同等の1票」でなくせるはずだ、という主張です[15]。
なお、西尾の言う「ヨーロッパのそれらの政党」がどこまでを指すのかは、資料からはわかりません。この記事で見た資料の範囲では、直接参加を正面から掲げたのは五つ星運動や Podemos などで、The Synthetic Party 自身の文書は代表の組み替えを語っています[1][4]。
Plurality の中での位置
書籍『Plurality』の 5-4 章「拡張熟議」は、2024 年の都知事選の安野陣営を、マニフェストを公開して有権者の意見を集め、Talk to the City で意見を見える化し、GitHub で政策を磨いた例として紹介しています[16]。同じ章は、ある集団の文章で学習した AI のモデルが集団の代表として働き、代表者の判断を補助・補完・チェックしうると書き、その例として The Synthetic Party を挙げています。この段落は、党の創設者自身が本の GitHub に出した変更提案で加わったものです[16][17]。
委任型の投票(リキッド・デモクラシー)は、本の 5-6 章「⿻ 投票」が扱っています。同じ章は、リキッド・デモクラシーが力の集中を生みうることにも触れています[18]。
もっと知りたい人へ
- AI 政党の例を一つ深く知る: The Synthetic Party ってなに?・チームみらいってなに?(日本語・このサイトの記事)
- Paolo Gerbaudo「Are digital parties more democratic than traditional parties?」(英語・論文、2019)— https://doi.org/10.1177/1354068819884878
- Marco Deseriis「Direct Parliamentarianism」(英語・論文、2017)— https://doi.org/10.29379/jedem.v9i2.471
- 「選挙でGitHubを使うことに意味はあったのか?」(日本語・記事、2024)— https://note.com/annotakahiro24/n/nef45fab195ea
- Marco Deseriis「Two Variants of the Digital Party」(英語・論文、2020)— https://doi.org/10.1285/i20356609v13i1p896
- Malý・Sandri・Barberà「Synthetic political actors」(英語・論文、2026)— https://doi.org/10.12688/openreseurope.23686.1
出典
- Paolo Gerbaudo「Are digital parties more democratic than traditional parties? Evaluating Podemos and Movimento 5 Stelle's online decision-making platforms」(Party Politics、2019)— https://doi.org/10.1177/1354068819884878
- Marco Deseriis「Direct Parliamentarianism: An Analysis of the Political Values Embedded in Rousseau, the 'Operating System' of the Five Star Movement」(JeDEM、2017)— https://doi.org/10.29379/jedem.v9i2.471 [CC BY]
- Chloe Xiang「This Danish Political Party Is Led by an AI」(Vice、2022-10-13)— https://www.vice.com/en/article/this-danish-political-party-is-led-by-an-ai/
- The Syntheticist Papers「Interviews」— https://syntheticism.org/content/7interviews.html [CC0]
- ブロードリスニング本 6.1「2025年参院選 チームみらいの取り組み」— https://github.com/digitaldemocracy2030/broad-listening-book/blob/f69c60c838a91b91668abf109d7093b240610139/06_01_%E3%83%81%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%81%BF%E3%82%89%E3%81%84.md [CC BY-NC 4.0]
- チームみらい「1,100人がスマホで投票した日──チームみらい第1回党大会の舞台裏」— https://note.com/team_mirai_jp/n/n2092f0dc600d
- Christoph Carl Kling ほか「Voting Behaviour and Power in Online Democracy: A Study of LiquidFeedback in Germany's Pirate Party」(ICWSM 2015)— https://arxiv.org/abs/1503.07723
- Michal Malý・Asker Bryld Staunæs「Synthetic chamber: agentic mediation in representative democracy」(AI & Society、2026、要旨)— https://doi.org/10.1007/s00146-026-03110-w [CC BY 4.0]
- 安野たかひろスタッフ「選挙でGitHubを使うことに意味はあったのか?――GitHubを用いた政策リポジトリの公開について振り返る」(2024-07-18)— https://note.com/annotakahiro24/n/nef45fab195ea
- Marco Deseriis「Two Variants of the Digital Party: The Platform Party and The Networked Party」(Partecipazione e conflitto、2020)— https://doi.org/10.1285/i20356609v13i1p896 [CC BY-NC-SA 3.0]
- Michal Malý・Giulia Sandri・Oscar Barberà「Synthetic political actors: an exploration into emerging AI-driven candidates and parties」(Open Research Europe、2026)— https://doi.org/10.12688/openreseurope.23686.1 [CC BY 4.0]
- Christopher J. Bickerton・Carlo Invernizzi Accetti『Technopopulism: The New Logic of Democratic Politics』(Oxford University Press、2021、出版社の要旨)— https://doi.org/10.1093/oso/9780198807766.001.0001
- The Syntheticist Papers「Genesis of The Synthetic Party」— https://syntheticism.org/content/genesis.html [CC0]
- Asker Bryld Staunæs・Michal Malý「Interview with Nishio Hirokazu (Team Mirai)」(Zenodo、2026-07-16、本文非公開)— https://doi.org/10.5281/zenodo.21395972 [CC BY 4.0]
- 西尾泰和「大勢の声を聞く技術は人の自由を増やすのか?」講演資料(2026-09-13)— https://www.dropbox.com/scl/fi/m0sl9gyndlpnytoczx6e0/2026_.pdf?rlkey=vittdaeqn0yv8tjytiszk7dp6&dl=0
- 『Plurality』5-4「Augmented Deliberation」— https://www.plurality.net/v/chapters/5-4/eng/ [CC0]
- pluralitybook/plurality PR #939 — https://github.com/pluralitybook/plurality/pull/939 [CC0]
- 『Plurality』5-6「⿻ Voting」— https://www.plurality.net/v/chapters/5-6/eng/ [CC0]
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