Plurality の地図

サム・アルトマン(Sam Altman)ってどんな人?

ChatGPT を作った OpenAI の共同創業者・CEO で、虹彩で ID を配る Worldcoin(現 World)の共同創業者です。書籍『Plurality』は「テクノクラシー」の代表として取り上げ、Worldcoin も批判します。

ChatGPT を使ったことがある人は多いでしょう。それを作った会社のトップが、この人です。AI が社会をどう変えるか、その恵みをどう分けるかについて、本人もたびたび文章を書いています。書籍『Plurality』は、その考えを自分たちとは違う道の代表として取り上げています。

ひとことで言うと

サム・アルトマン(Sam Altman)は、米国の AI 企業 OpenAI の共同創業者で、CEO です[1][2]。目の虹彩(瞳のまわりの模様)をスキャンして「一人に一つ」の ID を配る事業 Worldcoin(現在の名前は World)も共同で立ち上げました[1][3]。

書籍『Plurality』は、AI が生む豊かさとその再分配を重んじる「テクノクラシー」(技術に通じた少数の人が社会の舵取りを担う考え方)の代表的な論者として、アルトマンの名前を挙げています[4]。

Plurality とのかかわり

テクノクラシーの代表として。 本の 2-0 章は、Plurality と対になる考え方の一つ「テクノクラシー」を説明します。その中心にあるのは、アルトマンが「Moore's Law for Everything(あらゆるものにムーアの法則を)」と呼ぶ見通しだ、と本は書きます。AI があらゆる物を安く豊富にし、少なくとも原理的には物の欠乏をなくす、という見通しです[4]。

本はさらに、その豊かさは AI を握る少数に集まるかもしれないので、テクノクラシーの構想ではユニバーサル・ベーシックインカム(UBI。全員に一定のお金を配る制度)などの再分配が要になる、と説明します。そして、シリコンバレーでこの見方を主導しているのはアルトマンとその師リード・ホフマン(Reid Hoffman)らだ、と書いています[4]。→ 三つの道

結論の章の問いの中で。 7-1 章は「サム・アルトマンやリード・ホフマンのようなテクノクラートが望むように、技術者に問題を解決させ、未来を計画させ、それが作り出す物質的な快適さを分配させるべきだろうか」と問います(日本語版の訳)[16]。本はこの問いを、リバタリアンの道とともに、自分たちが選ばない道として置いています。→ ピーター・ティール

Worldcoin への批判。 4-1 章は、インドの ID 制度 Aadhaar の成功にも触発されて、アルトマンらが 2019 年に Worldcoin を始めたと紹介します。独自の装置「オーブ(Orb)」で、ほぼ途上国だけで数百万人の虹彩を読み取ってきた、と書きます[1]。

そのうえで本は、この方式の弱点を挙げます。生体情報を口座を開くときだけ使ってプライバシーを守ると、口座の盗難や売り買いに弱くなる。多くのサービスは「唯一の人間であること」以上の情報を求めるので、使い道が限られる。将来 AI と印刷技術で目が偽造できるようになれば、全体が一か所で崩れかねない。本は、生体認証には誰でも加われる手軽さという大事な強みがあると認めつつ、⿻(Plurality)を支える ID としては単純すぎる、と結論しています[1]。→ proof of personhood(人間であることの証明)・ID と人物性

ワイル・タン・ブテリンの言及。 グレン・ワイル は 2022 年のエッセイで、テクノクラシーの基本文献に「Moore's Law for Everything」を、代表人物の筆頭にアルトマンを挙げました[5]。オードリー・タン は 2023 年、OpenAI の「Democratic inputs to AI」のチームとの対話で、アルトマンが描く世界規模の熟議という夢は、いくつもの規模(ズームの段階)で行う必要がある、と応じています[6]。ヴィタリック・ブテリン は 2024 年の本の書評で、テクノクラシーの例の一つに「アルトマンと仲間たちの UBI 推進」を挙げました[7]。

主な考え

ここからは、アルトマン本人(または OpenAI などの組織)の文章にもとづいて紹介します。

あらゆるものにムーアの法則を(2021 年)。 アルトマンは、考え学ぶソフトウェアが人の仕事をますます担うようになり、力が労働から資本へ移る、と書きました。政策が追いつかなければ多くの人の暮らしが悪くなる、という問題意識です。対策として、一定以上の時価総額の企業に毎年その 2.5% を株で、私有地の価値の 2.5% をお金で課し、「American Equity Fund」という基金に積み立てて、すべての成人に配る案を出しました[8]。

超知能の統治(2023 年)。 OpenAI の共同創業者たちと連名の文章で、一定の能力や計算資源を超える開発には、原子力の国際機関 IAEA のような、査察や監査のできる国際機関がいずれ必要になるだろう、と書きました。同時に、AI システムの限度と初期設定は世界の人々が民主的に決めるべきで、その仕組みの作り方はまだわからないが実験していく、とも述べています[9]。→ 超知能

AI への民主的な意見(2023 年〜)。 OpenAI の非営利法人は 2023 年 5 月、AI が従うルールを民主的に決めるやり方の実験に、10 万ドルずつ 10 件の助成を出すと発表しました[10]。2024 年 1 月の報告では成果を紹介し、人々の意見で強力なモデルの舵を取る仕組みを作る「Collective Alignment」チームを立ち上げると告げています[11]。この助成からは、アヴィヴ・オヴァジャ(Aviv Ovadya)らの「集団対話」の論文も生まれました[12]。台湾の似た試みは Alignment Assemblies の記事で紹介しています。

穏やかなシンギュラリティ(2025 年)。 アルトマンは、人類はもう後戻りできない地点を越え、離陸は始まった、と書きました。そのうえで、最善の道はたとえば、まずアラインメント(AI を人々が長い目で本当に望むことに沿って動かすこと)の問題を解き、次に超知能を安く広く使えるものにし、特定の個人・企業・国に集中させすぎないことに力を注ぐ、というものかもしれない、としています[13]。

AI は民主化されねばならない(2026 年)。 自宅に火炎瓶を投げつけられた(けが人はいませんでした)直後に書いたブログ投稿で、アルトマンは自分の信じることを並べました。その一つが、AI は民主化されねばならず、力が集中しすぎてはいけない、というものです。未来の形を決める最も重い決定を少数の AI 研究所が下すのは正しくない、とも書いています[14]。

World(旧 Worldcoin)。 World の白書は、自らを、人間であることの証明と新しい経済の基盤によって、一人ひとりの力を最大限に高めるネットワークだと説明しています[3]。

どこが議論になっているか

もっと知りたい人へ

  1. 『Plurality』2-0 章「テクノクラシー」の節(日本語版は「IT と民主主義 拡大する溝」)(英語・本)— https://www.plurality.net/v/chapters/2-0/eng/
  2. Sam Altman「Moore's Law for Everything」(英語・エッセイ、2021)— https://moores.samaltman.com/
  3. OpenAI「Governance of superintelligence」(英語・ブログ、2023)— https://openai.com/index/governance-of-superintelligence/
  4. Sam Altman「The Gentle Singularity」(英語・ブログ、2025)— https://blog.samaltman.com/the-gentle-singularity
  5. 『Plurality』4-1「Identity and Personhood」(英語・本)— https://www.plurality.net/v/chapters/4-1/eng/
  6. Vitalik Buterin「What do I think about biometric proof of personhood?」(英語・ブログ、2023)— https://vitalik.eth.limo/general/2023/07/24/biometric.html

出典

  1. 『Plurality』4-1「Identity and Personhood」— https://www.plurality.net/v/chapters/4-1/eng/ [CC0]
  2. Vitalik Buterin「What do I think about biometric proof of personhood?」(2023-07-24)— https://vitalik.eth.limo/general/2023/07/24/biometric.html
  3. World Foundation / Tools for Humanity「World Whitepaper 1: Building World」— https://whitepaper.world.org/building-world
  4. 『Plurality』2-0「Information Technology and Democracy: A Widening Gulf」— https://www.plurality.net/v/chapters/2-0/eng/ [CC0]
  5. E. Glen Weyl「Political Ideologies for the 21st Century」(2022-02-17)— https://www.radicalxchange.org/updates/blog/political-ideologies-for-the-21st-century/
  6. Audrey Tang「Conversation with OpenAI」(2023-05-04)— https://archive.tw/2023-05-04-conversation-with-openai [CC0]
  7. Vitalik Buterin「Plurality philosophy in an incredibly oversized nutshell」(2024-08-21)— https://vitalik.eth.limo/general/2024/08/21/plurality.html
  8. Sam Altman「Moore's Law for Everything」(2021-03-16)— https://moores.samaltman.com/
  9. Sam Altman, Greg Brockman, Ilya Sutskever「Governance of superintelligence」(2023-05-22)— https://openai.com/index/governance-of-superintelligence/
  10. OpenAI「Democratic inputs to AI」(2023-05-25)— https://openai.com/index/democratic-inputs-to-ai/
  11. OpenAI「Democratic inputs to AI grant program: lessons learned and implementation plans」(2024-01-16)— https://openai.com/index/democratic-inputs-to-ai-grant-program-update/
  12. Andrew Konya, Lisa Schirch, Colin Irwin, Aviv Ovadya「Democratic Policy Development using Collective Dialogues and AI」(2023)— https://arxiv.org/abs/2311.02242 [CC BY 4.0]
  13. Sam Altman「The Gentle Singularity」(2025-06-10)— https://blog.samaltman.com/the-gentle-singularity
  14. Sam Altman(無題のブログ投稿、2026-04-10)— https://blog.samaltman.com/2279512
  15. Audrey Tang & Caroline Green「Accelerating AI Ethics: AI and Democracy」(2025-08-05)— https://archive.tw/2025-08-05-accelerating-ai-ethics-ai-and-democracy [CC0]
  16. 『PLURALITY』日本語版 7-1「結論」— https://www.plurality.net/v/chapters/7-1/jpn/ [CC0]

記事の間違いや、知りたいこと(「〜ってなに?」)を受け付けています。送られた内容は公開の issue になります。

この記事の間違いを知らせる ・ 質問する