Plurality の地図

ペルシア語圏での Plurality の広がりってなに?

ペルシア語圏で書籍『Plurality』がどう読まれているかは、ほとんどわかりません。訳は見つからず、タンやワイルを扱う報道も取れませんでした。見えるのは Community Notes の報道と、検閲の回避が話題の対話です。

ネットが政府に遮断されたり、検閲されたりする国では、「みんなで話し合って決めるためのデジタルの道具」より先に、まず「ネットにつながること」そのものが問題になります。ペルシア語が話されるイランは、そういう話題でよく名前が挙がる国です。台湾のオードリー・タン(Audrey Tang、ペルシア語では آدری تانگ)とグレン・ワイル(E. Glen Weyl、گلن ویل)の書籍『Plurality』は、ペルシア語圏でどう受け止められているのでしょうか。

ひとことで言うと

答えは、今のところ「ほとんどわからない」です。この記事のための調査では、本のペルシア語訳は見つかっていません[1]。タン・ワイル・本の名前を出すペルシア語の報道も、取れませんでした。

見えるのは二つです。一つは、イラン国内のメディアが X(旧 Twitter)の Community Notes を伝えた記事。もう一つは、イランの検閲の回避が話題になった、タンが加わった場の英語の記録です。ただし、国外のペルシア語メディアの多くは調べられていません。「イランでは知られていない」と結論できるわけではありません。

たとえば

ベルリンの会議(2025 年 11 月 10 日)。 ベルリンで開かれた Berlin Freedom Conference で、タンの講演のあとにパネルがありました。そこで、イラン生まれの技術者で人権活動家の登壇者が、イランでの経験を話しています。「Women, Life, Freedom」の運動のころ、VPN や衛星インターネットを使うと罰せられるにもかかわらず、人々は工夫して Starlink を持ち込み、検閲の壁を少しずつ崩していった、という話です[3]。

同じ場で、全米民主主義基金(NED)の Damon Wilson は、シリコンバレーやワシントンでイラン向けに作った道具は的を外すかもしれない、と述べました。国内や亡命先で取り組むイランの技術者たちが、自分で道を見つけるだろう、という見方です[3]。

マスクの投稿を伝えた記事(2025 年 2 月 21 日)。 イラン国内のメディア Digiato(دیجیاتو)は、イーロン・マスクが Community Notes を「直す」と X に投稿したことを伝えました。記事は、マスクの投稿を「متاسفانه Community Notes به بازیچه دولت‌ها و رسانه‌ها بدل گشته است」(残念ながら Community Notes は政府とメディアのおもちゃになってしまった)と訳しています[4]。

Z 世代と台湾(2025 年 11 月 7 日)。 Khabaronline のブログで、法律家・大学講師で子どもの国際法の研究者(末尾の署名による)が、Z 世代とデジタル時代の「自分のことを自分で決める権利」を論じました。例の一つとして台湾に一文だけ触れ、「و در تایوان، نظامی از دموکراسی دیجیتال پدید آمد که شهروندان از طریق سامانه‌های آنلاین در تدوین قوانین مشارکت می‌کنند」(台湾では、市民がオンラインのシステムで法の起草に加わる、デジタル民主主義の仕組みが生まれた)と書いています。タンや vTaiwan の名前は出てきません[5]。

くわしく

訳について

本の GitHub の「fork」(写しを作って手を入れたもの)は 160 件あります(このサイトによる 2026 年 10 月の暫定の数え)。その中に、ペルシア語(persian・farsi)のディレクトリはありませんでした。本のサイト plurality.net の言語の一覧(13 言語)にも、ペルシア語(fa)はありません。GitHub のリポジトリ検索も 0 件でした[1]。

ワイルの前著『Radical Markets』(『ラディカル・マーケット』)はどうでしょうか。ペルシア語版 Wikipedia の「گلن ویل」は、この本の題を「بازارهای رادیکال」と訳して挙げています。けれども、添えられた書誌はプリンストン大学出版局の英語版の ISBN で、ペルシア語版の書誌ではありません[2]。イランの書店サイトの検索では判定ができず、Google Books は利用の上限で調べられませんでした。ですから、「訳が無い」とまでは言えません。→ ラディカル・マーケット

国内メディアが伝えた Community Notes

Community Notes は、利用者が誤解を招く投稿に注記(ノート)を書き、ほかの利用者の評価で表示を決める仕組みです。→ Community Notes

Digiato と Khabaronline は、次のような話を伝えました。

どの記事も、名前を訳さずに「Community Notes」と書いています。仕組みの説明は、利用者がノートを書き、役に立つかどうかに票を入れる、という程度です。この 4 本には、立場の違う人の評価を合わせて表示を決めるしくみ(ブリッジング)の説明はありません[4][7]。

2026 年 7 月の記事は、Nature Communications 誌の研究を引いています。研究によると、ノートによる訂正は投稿の広がりを減らす効果はあるものの、たいてい遅すぎて、拡散の初めの段階には間に合わない、といいます[8]。なお、ペルシア語版 Wikipedia の項目名は、音をそのまま写した「کامیونیتی نوتز」です[9]。

台湾と偽情報

Digiato は 2026 年 2 月、Science 誌の論文を伝えました。AI のボットの群れが世論を欺きうる、という警告の論文です。記事は、その初期の形が 2024 年の台湾・インド・インドネシアの選挙で使われた、という報告を紹介し、台湾の民進党の議員、沈伯洋(Puma Shen)の話も載せています。この記事にも、タンの名前はありません[10]。

タンの対話の記録に出てくるイラン

タンの対話の記録(英語)にも、イランが出てくるものがあります。

「自由の道具」と「民主主義の道具」(2024 年 3 月 21 日)。 Global Taiwan Institute の聞き手が、米国がイランなどに向けて作ってきた検閲を回避する道具は成果を上げたか、と尋ねました。タンの答えはこうです。それは自由な通信や集会、言論のための道具であって、必ずしも民主主義のための道具ではない。オンラインの基本的な自由を支えることには価値があるが、その段階で止まるなら、あまり効き目がない。人々がその道具を使って組織し、話し合いで世の中の考えを形づくらなければ、それだけではあまり効き目がない[11]。

「halal internet」(2023 年 10 月 18 日)。 Jigsaw の Yasmin Green は、タンとの対話で、イラン・中国・ロシアのような国では、まず人々がネットにつながれるようにすることが中心になる、と述べました。そのうえで、こうした国はもともと統治の考え方に合うネットを持っており、イランは「halal internet」(ハラールなインターネット)に向かっている、と話しています。これは Green の発言で、タンの発言ではありません[12]。

TED2026 の Community Notes の回(2026 年 4 月 14 日)。 Community Notes の作り手たちは、イランをめぐる投稿に使われた AI の生成画像にノートが付いた例を紹介しました。また、「Iran conflict」(イランをめぐる紛争)のあいだに、合成された映像や画像が急に増えた、とも話しています[13]。

どこが議論になっているか

Plurality の中での位置

本がイランを扱っている箇所は、この記事のための調査では確かめていません。ここでの資料が触れているのは、本の中心の考えより手前にある「つながる自由」の層(検閲の回避)と、Community Notes の報道です。

タンが「自由のための道具」と「民主主義のための道具」を分けた発言は[11]、デジタル民主主義と台湾のデジタル民主主義の違いを考える手がかりになります。

ほかの国・地域の記事:

もっと知りたい人へ

  1. Berlin Freedom Conference の記録(英語・講演とパネル、CC0)— https://github.com/audreyt/transcript/blob/main/2025-11-10-Berlin-Freedom-Conference-The-Role-Of-AI.md
  2. Global Taiwan Institute との対話(英語・対話記録、CC0)— https://github.com/audreyt/transcript/blob/main/2024-03-21-Conversation-with-Global-Taiwan-Institute.md
  3. Digiato のマスクの投稿の記事(ペルシア語・記事)— https://digiato.com/app/elon-musk-wants-to-fix-community-notes-on-x
  4. ペルシア語版 Wikipedia「کامیونیتی نوتز」(ペルシア語・事典)— https://fa.wikipedia.org/wiki/%DA%A9%D8%A7%D9%85%DB%8C%D9%88%D9%86%DB%8C%D8%AA%DB%8C_%D9%86%D9%88%D8%AA%D8%B2
  5. Khabaronline のブログ「نسل زد و بیداری دیجیتال」(ペルシア語・論考)— https://www.khabaronline.ir/news/2132059/

出典

  1. 本のリポジトリの fork の一覧 — https://github.com/pluralitybook/plurality/forks [CC0]
  2. ペルシア語版 Wikipedia「گلن ویل」— https://fa.wikipedia.org/wiki/%DA%AF%D9%84%D9%86_%D9%88%DB%8C%D9%84
  3. Berlin Freedom Conference: The Role of AI(2025-11-10)— https://github.com/audreyt/transcript/blob/main/2025-11-10-Berlin-Freedom-Conference-The-Role-Of-AI.md [CC0]
  4. Digiato「ایلان ماسک می‌خواهد ویژگی Community Notes شبکه اجتماعی ایکس را اصلاح کند」(2025-02-21)— https://digiato.com/app/elon-musk-wants-to-fix-community-notes-on-x
  5. Khabaronline「نسل زد و بیداری دیجیتال؛ دموکراسی در عصر پلتفرم‌ها」(2025-11-07)— https://www.khabaronline.ir/news/2132059/
  6. Digiato「مدیرعامل ایکس از تصمیم متا برای استفاده از Community Notes استقبال کرد」(2025-01-08)— https://digiato.com/app/ceo-x-welcomed-metas-decision-to-add-community-notes
  7. Khabaronline「کپی‌برداری زاکربرگ از ایکس」(2025-04-05)— https://www.khabaronline.ir/news/2045458/
  8. Khabaronline「ایکس بروزرسانی شد / تغییر بزرگ چیست؟」(2026-07-09)— https://www.khabaronline.ir/news/2243988/
  9. ペルシア語版 Wikipedia「کامیونیتی نوتز」— https://fa.wikipedia.org/wiki/%DA%A9%D8%A7%D9%85%DB%8C%D9%88%D9%86%DB%8C%D8%AA%DB%8C_%D9%86%D9%88%D8%AA%D8%B2
  10. Digiato「هشدار محققان: بات‌ها در شبکه‌های اجتماعی می‌توانند افکار عمومی را فریب دهند」(2026-02-16)— https://digiato.com/artificial-intelligence/ai-bot-swarms-threaten-democracy
  11. Conversation with Global Taiwan Institute(2024-03-21)— https://github.com/audreyt/transcript/blob/main/2024-03-21-Conversation-with-Global-Taiwan-Institute.md [CC0]
  12. Conversation with Yasmin Green and Örkesh Dölet(2023-10-18)— https://github.com/audreyt/transcript/blob/main/2023-10-18-Conversation-with-Yasmin-Green-and-%C3%96rkesh-D%C3%B6let.md [CC0]
  13. How Community Notes Reduce Viral Misinformation(TED2026、2026-04-14)— https://github.com/audreyt/transcript/blob/main/2026-04-14-How-Community-Notes-Reduce-Viral-Misinformation.md [CC0]

記事の間違いや、知りたいこと(「〜ってなに?」)を受け付けています。送られた内容は公開の issue になります。

この記事の間違いを知らせる ・ 質問する