レオポルド・アッシェンブレナー(Leopold Aschenbrenner)ってどんな人?
「数年のうちに人間より賢い AI が現れ、国どうしの競争になる」。こうした見通しを、数字と年表で具体的に描いて大きな反響を呼んだのが、この人の連作エッセイです。書籍『Plurality』の側の人々とは違う立場から、AI の未来を論じている人として紹介します。
ひとことで言うと
レオポルド・アッシェンブレナー(Leopold Aschenbrenner)は、OpenAI で超知能の安全性を研究する「Superalignment」チームが始まったとき、その最初のメンバーの一人だった研究者です[1]。
2024 年 6 月、連作エッセイ『Situational Awareness: The Decade Ahead(状況認識:これからの 10 年)』を公開しました。2027 年ごろには AGI(汎用人工知能。人間のように幅広い仕事ができる AI)が現れうること、そして超知能は経済と軍事で決定的な優位をもたらすので、自由世界は競争に勝たねばならないことを論じています[2]。→ 超知能
同じ 2024 年 6 月の Dwarkesh Podcast では、Patrick Collison・John Collison、Daniel Gross、Nat Friedman を主な出資者として、AGI と超知能に賭ける投資会社を立ち上げる、と本人が語りました[1]。その後の活動は、このサイトの資料には含まれていません。
Plurality とのかかわり
本やワイル・タンによる直接の言及はありません。 書籍『Plurality』(各言語版)と、グレン・ワイル、オードリー・タンの講演・対談の記録には、アッシェンブレナーや『Situational Awareness』を名指しで論じた箇所は見つかっていません。唯一の例外は、下で紹介する対談で、司会者がこのエッセイの名前を出した場面です。
ブテリンによる言及。 ヴィタリック・ブテリン は 2025 年 1 月の「d/acc: one year later」で、AI のハードウェアの規制が、輸出規制のように「自分の側は信頼するが相手は信頼しない」という考え方で検討されている、と書きました。その例として、アメリカはまず決定的な優位を得るために競争し、そのうえで中国に、動かせる計算機の数を制限する取り決めを事実上のませるべきだ、というアッシェンブレナーの主張を挙げています。ブテリンは、このやり方は危うく、競争と中央集権の両方の欠点を併せ持ちかねないと見ます。制限が要るなら、一つの側が他を支配するのではなく、全員を対等に制限し、協力の仕組みを作る努力をすべきだ、というのがブテリンの考えです[3]。→ d/acc
タンへの問いの中で。 2026 年 1 月の番組「Doom Debates」で、司会のリロン・シャピラ(Liron Shapira)は、『Situational Awareness』などの最近の文章に触れ、名前を思い出せない別の論文が、国どうしが互いの AI の力を本気で狙い合うと書いていた、台湾は将来の経済の要になる、と話題にしました[4]。続けて国際条約や AI の「停止ボタン」について問われた オードリー・タン は、AI が人を強く説得してしまう力を心配して、「Red Lines」宣言(越えてはいけない一線を定めようという宣言)に署名したと答えました。そのうえで、台湾の詐欺対策のように、発言を検閲せず、誰の発言か・電子署名があるかを見えるようにする。そうした小さく身近なレッドラインを社会が引く練習が、将来の大きな国際条約の土台になる、と述べています[4]。これはアッシェンブレナー個人を論じた発言ではありません。
AI の未来をめぐる論争の中で。 『Situational Awareness』には、マックス・テグマーク(Max Tegmark)の「The Hopium Wars: the AGI Entente Delusion」など、応答がいくつも寄せられました[5]。このサイトでは、Plurality の側とは別の立場の代表的な文書の一つとして、AI の未来をめぐる論争 の記事でも取り上げています。
主な考え
ここからは、アッシェンブレナー本人の文章や発言にもとづいて紹介します。
『Situational Awareness』(2024 年)。 序章は、AGI の競争はすでに始まったと書きます。2025〜26 年には AI が多くの大卒者を上回り、2020 年代の終わりまでには本当の意味での超知能が現れる、という見通しです[2]。
各章の要約(著者自身によるもの)は次のとおりです[2]。
- I 章:計算量とアルゴリズムの効率の伸びを「桁(OOM)」で数え、2027 年の AGI は驚くほどありそうだ、と論じます。
- II 章:数億の AGI が AI の研究そのものを自動化し、10 年分のアルゴリズムの進歩を 1 年以内に詰め込む「知能爆発」を描きます。
- IIId 章「The Free World Must Prevail(自由世界は勝たねばならない)」:超知能は経済と軍事で決定的な優位を与える、中国はまだ競争から降りていない、と論じます。
- IV 章「The Project」:AGI の競争が激しくなると国の安全保障の機関が関わり、2027〜28 年までにアメリカ政府が何らかの AGI 計画に乗り出す、と予測します。
競争に勝ちたいならアラインメントを(2023 年)。 アラインメントとは、AI を人間の意図や価値に沿って動かすための研究です。アッシェンブレナーは、AGI の競争で中国に勝ちたいなら、もっと良いアラインメントの計画が要る、と書きました。人間を超える AGI が安全だと広く合意できるほどの解決がなければ、先へ進めなくなるかもしれない、という理屈です[6]。同じ日の別の投稿では、AI の能力を高める研究者が世界におそらく約 10 万人いるのに対し、アラインメントの研究者は約 300 人しかいない、と警告しています[7]。
成長と人類存亡のリスク(2020 年)。 オックスフォード大学の Global Priorities Institute のワーキングペーパーでは、技術の進む向きを考える経済モデルで、人類存亡のリスクが山なりの形(逆 U 字)をたどりうる、と論じました。いまは人類を滅ぼしうる技術を持ちながら、安全に十分なお金をかけるほどには豊かでない「危険の時代」かもしれない。そして、この時期に成長を速めると、はじめはリスクが上がるが、長い目で見た生き残りの見込みは高まる、という主張です(取得できたのは要旨のみ)[8]。
バーク的な長期主義(2021 年)。 18 世紀の思想家エドマンド・バークの『フランス革命の省察』から、社会は生きている人・亡くなった人・これから生まれる人のあいだの協同関係だ、という趣旨の一節を掲げて書いた文章です。遠い未来を強く気にかける「長期主義」の友人たちと近いけれど違う見方を「Burkean longtermism」と名づけ、遠い未来への関心、受け継いだものへの感謝、知ることの限界への謙虚さなどを命題として並べました[9]。
OpenAI を離れた経緯(本人の説明)。 アッシェンブレナーは Dwarkesh Podcast で、OpenAI は情報漏洩を理由に自分を解雇したと社員に説明した、と語りました。本人によれば、「漏洩」とされたのは、AGI に向けて必要な安全・セキュリティ対策についての検討メモを外部の研究者 3 人に見せたことでした。また解雇のときには、セキュリティに関するメモが大きな理由だと明言された、とも述べています。これは本人の側の説明です[1]。
どこが議論になっているか
- ブテリンの見方。 上で見たとおり、ブテリンは、まず決定的な優位を取りにいき、そのあと相手に制限をのませるという道筋を、危ういものと見ています。対等な制限と協力の努力を優先すべきだ、という立場です[3]。
- テグマークらの応答。 『Situational Awareness』には、LessWrong などで応答がいくつも書かれました。テグマークは 2024 年 10 月の文章で、民主主義の国々が組んで AI で中国より優位に立とうとする戦略(「アンタント(協商)」戦略)を取り上げ、その推進者として Anthropic の CEO ダリオ・アモデイ(Dario Amodei)やアッシェンブレナーらの名を挙げました。テグマークは、倫理や地政学の好みにかかわらずこの戦略には根本的な欠陥があり、アメリカの安全保障の利益にも反する、と論じています。米中が AGI の競争をすれば、勝つのは機械だけだ、という主張です[5]。
もっと知りたい人へ
- Leopold Aschenbrenner『Situational Awareness: The Decade Ahead』序章と章の要約(英語・エッセイ、2024)— https://situational-awareness.ai/
- Dwarkesh Podcast「Leopold Aschenbrenner — 2027 AGI, China/US Super-Intelligence Race, & The Return of History」(英語・ポッドキャスト、約 4.5 時間)— https://www.dwarkesh.com/p/leopold-aschenbrenner
- Leopold Aschenbrenner「Want to win the AGI race? Solve alignment.」(英語・ブログ、2023)— https://www.forourposterity.com/want-to-win-the-agi-race-solve-alignment/
- Vitalik Buterin「d/acc: one year later」(英語・ブログ、2025)— https://vitalik.eth.limo/general/2025/01/05/dacc2.html
- Max Tegmark「The Hopium Wars: the AGI Entente Delusion」(英語・論考、2024)— https://www.lesswrong.com/posts/oJQnRDbgSS8i6DwNu/the-hopium-wars-the-agi-entente-delusion
出典
- Dwarkesh Patel「Leopold Aschenbrenner — 2027 AGI, China/US Super-Intelligence Race, & The Return of History」(2024-06-04)— https://www.dwarkesh.com/p/leopold-aschenbrenner
- Leopold Aschenbrenner『Situational Awareness: The Decade Ahead』序章と目次(2024-06、抜粋)— https://situational-awareness.ai/
- Vitalik Buterin「d/acc: one year later」(2025-01-05)— https://vitalik.eth.limo/general/2025/01/05/dacc2.html
- Audrey Tang & Liron Shapira「Doom Debate」(2026-01-20)— https://archive.tw/2026-01-20-doom-debate [CC0]
- Max Tegmark「The Hopium Wars: the AGI Entente Delusion」(LessWrong、2024-10-13)— https://www.lesswrong.com/posts/oJQnRDbgSS8i6DwNu/the-hopium-wars-the-agi-entente-delusion
- Leopold Aschenbrenner「Want to win the AGI race? Solve alignment.」(2023-03-29)— https://www.forourposterity.com/want-to-win-the-agi-race-solve-alignment/
- Leopold Aschenbrenner「Nobody's on the ball on AGI alignment」(2023-03-29)— https://www.forourposterity.com/nobodys-on-the-ball-on-agi-alignment/
- Leopold Aschenbrenner「Existential Risk and Growth」(GPI Working Paper No. 6-2020、要旨)— https://web.archive.org/web/20250617201207/https://globalprioritiesinstitute.org/leopold-aschenbrenner-existential-risk-and-growth/
- Leopold Aschenbrenner「Burkean Longtermism」(2021-07-26)— https://www.forourposterity.com/burkean-longtermism/
記事の間違いや、知りたいこと(「〜ってなに?」)を受け付けています。送られた内容は公開の issue になります。