エレーヌ・ランデモア(Hélène Landemore)ってどんな人?
政治は選挙で選ばれた政治家がするもの。多くの人はそう考えています。この人は、くじで選ばれたふつうの市民がじっくり話し合って決めるほうが賢く、しかも民主的だ、と論じてきました。最近は、その考えを AI の統治にも広げています。
ひとことで言うと
エレーヌ・ランデモア(Hélène Landemore)は、フランス出身のイェール大学の政治学教授です。選挙で選んだ政治家に任せるよりも、くじ引き(抽選)で選んだ多様な市民が時間をかけて話し合って(熟議して)決めるほうが、賢く、しかも民主的だと論じています[1][2]。フランスの市民気候会議などを内側から観察し、近年は、AI を使って話し合いを大人数に広げる方法や、AI そのものを市民が治める方法を提案しています[1][3]。
Plurality とのかかわり
本には名前が出てきません。 書籍『Plurality』の英語・日本語・繁体字中国語版の本文と脚注に、ランデモアの名前はありません。つながりは、共著者の オードリー・タン との協力と、本の 5-4 章「拡張熟議」が扱う「話し合いを技術で広げる」という主題です。
タンとの共著。 2026 年 9 月、ランデモアとタンは Noema に共著の論考を載せました。フロンティア AI(最先端の AI)の開発競争は、みんなで協力すれば得をするのに、抜け駆けが怖くて協力できない種類の問題だ、と二人は見ます。抜け駆けを防ぐには、確かめる仕組みと、みんなが信頼できる「証人」が要る。そこで、世界中からくじで選ぶ 1,000 人の常設の「AI に関する世界市民議会」をつくり、強力な AI の目的と限界を決めるのを助け、各社が限界を守っているかの報告を受ける役を担わせよう、と提案しています[2]。同じ文によれば、この提案の前の版は 2023 年に Fortune に載りました[2]。→ Alignment Assemblies
6-Pack of Care での引用。 タンらの 6-Pack of Care の第 1 の原則「気づき」は、「欠けている声を探す」という考えの説明で、ランデモアの本についてのインタビューを引いています[4]。
共同研究。 タン、アヴィヴ・オヴァジャ、ディヴィヤ・シッダールト らと、2024 年の総説「AI and the Future of Digital Public Squares」を共著しています[5]。2023 年には、OpenAI の「Democratic Inputs to AI」という助成プログラムの諮問委員に名前があります[6]。
現場を見てきた人。 英語版ウィキペディアによると、ランデモアはアイスランドの憲法改正(2010〜13 年、ネットで市民の意見を集めて憲法案を作った試み)を研究し、フランスの市民気候会議(2019〜20 年)を直接観察しました[1]。2022 年には、終末期医療についてのフランスの市民会議の運営委員に任命されています[7]。
主な考え
民主的な知恵。 集団の知恵は、一人ひとりの能力の高さよりも、考え方の多様さから生まれる。だから大勢の人は、少数の専門家より賢い判断をしうる。ランデモアはこうして、民主主義が正しい答えにたどり着きやすいことを論じました[8]。
開かれた民主主義。 選挙は少数のエリートに力を与えるので、民主的というより貴族的だ、とランデモアは言います。代わりに、くじで選ばれた市民が「代わる代わる代表し、代表される」仕組みを提案しました[1][9]。
政治家のいない政治。 2026 年の新しい本『Politics Without Politicians』では、選挙で選ばれた議員を、くじで選ばれた市民に置き換える構想を一般向けに語っています[10]。
AI で話し合いを大人数に。 話し合いの「質」と、大人数の「参加」は、ふつう両立しにくいものです。ランデモアは、AI がその溝を埋められるか、という問いを立てています[11]。2026 年 8 月の Noema の寄稿では、何億人もが使う AI のサービスそのものを使って人々に AI についての問いを投げかけ、三つの段階で「AI のための世界憲法」を作ろう、と提案しました。AI を通じた世界規模の意見集め、AI が進行するオンラインの世界的な話し合い、そして各国と世界の市民議会です[3]。→ AI の未来をめぐる論争
もっと知りたい人へ
- The New Yorker「Politics Without Politicians」(英語・人物記事、2020)— https://www.newyorker.com/news/the-future-of-democracy/politics-without-politicians
- ReThinking with Adam Grant「Taking politicians out of politics」(英語・ポッドキャストの書き起こし、2026)— https://www.ted.com/podcasts/rethinking-with-adam-grant/taking-politicians-out-of-politics-with-helene-landemore-transcript
- Landemore & Tang「Let The People Set The Pace Of Frontier AI」(英語・論考、Noema 2026-09-23)— https://www.noemamag.com/let-the-people-decide-the-pace-of-frontier-ai
- 「Why the Many Are Smarter than the Few and Why It Matters」(英語・論文、2012、CC BY)— https://doi.org/10.16997/jdd.129
- 「How To Give Everyday People A Say In AI Governance」(英語・論考、Noema 2026-08-04)— https://www.noemamag.com/how-to-give-everyday-people-a-say-in-ai-governance
出典
- 英語版ウィキペディア「Hélène Landemore」— https://en.wikipedia.org/wiki/H%C3%A9l%C3%A8ne_Landemore [CC BY-SA 4.0]
- Landemore & Tang「Let The People Set The Pace Of Frontier AI」(Noema、2026-09-23)— https://www.noemamag.com/let-the-people-decide-the-pace-of-frontier-ai
- Hélène Landemore「How To Give Everyday People A Say In AI Governance」(Noema、2026-08-04)— https://www.noemamag.com/how-to-give-everyday-people-a-say-in-ai-governance
- civic.ai「Pack 1: Attentiveness」— https://civic.ai/1/ [CC0]
- 「AI and the Future of Digital Public Squares」(2024)— https://arxiv.org/abs/2412.09988 [CC BY-SA 4.0]
- OpenAI「Democratic Inputs to AI」(2023-05-25)— https://openai.com/index/democratic-inputs-to-ai/
- Yale News「Yale's Landemore helps guide France's unique citizens' convention」(2022-11-29)— https://news.yale.edu/2022/11/29/yales-landemore-helps-guide-frances-unique-citizens-convention
- Hélène Landemore「Why the Many Are Smarter than the Few and Why It Matters」(2012)— https://doi.org/10.16997/jdd.129 [CC BY 4.0]
- 「Symposium on Open Democracy」への応答(2022)— https://doi.org/10.16997/10.16997/jdd.1213 [CC BY 4.0]
- ReThinking with Adam Grant「Taking politicians out of politics」(2026-02-10)— https://www.ted.com/podcasts/rethinking-with-adam-grant/taking-politicians-out-of-politics-with-helene-landemore-transcript
- Stanford HAI「Can AI Bring Deliberation to the Masses?」(2022)— https://hai.stanford.edu/events/helene-landemore-can-ai-bring-deliberation-masses
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