Plurality の地図

バラジ・スリニバサン(Balaji Srinivasan)ってどんな人?

2022 年の本『The Network State』で、ネットでまとまった共同体が土地を持ち、やがて国として認められる「ネットワーク国家」を唱えた起業家です。書籍『Plurality』はリバタリアニズムの代表的な論者の一人に挙げています。

国のしくみに不満があるとき、選挙で内側から変える道のほかに、外へ出て自分たちで新しいものを作る道もあります。後者を「国を作る」ところまで突き詰めて考えてきたのが、この人です。書籍『Plurality』とは考え方が大きく違う人として、本の中にも名前が出てきます。

ひとことで言うと

バラジ・スリニバサン(Balaji Srinivasan)は、2022 年の本『The Network State(ネットワーク国家)』の著者です[1]。考えの近い人々がまずネット上で強くまとまり、資金を出し合って世界各地に土地を持ち、やがて既存の国から国として認められる。そういう新しい国のつくり方を唱えています[1]。2024 年には、シンガポールの近くで「Network School」という学校も始めました[2]。

Plurality とのかかわり

リバタリアニズムの代表的な本の著者として。 本の 2-0 章は、Plurality と対になる考え方の一つ「リバタリアニズム」(自由至上主義。個人の自由を最も重んじ、国の役割を小さくしようとする立場)には、はっきりした「定番の本」と指導者たちがいる、と書きます。その定番として、『The Sovereign Individual』などと並べて『The Network State』を挙げています[3]。→ 三つの道

結論の章の問いの中で。 7-1 章は「ピーター・ティール、マーク・アンドリーセン、バラジ・スリニバサンのようなリバタリアンが望むように、個人を解放し、制約や責任から逃れたアトム的主体にすべきだろうか」と問います(日本語版の訳)[4]。本はこの問いを、技術者に未来を任せる道とともに、自分たちが選ばない道として置いています。→ 一元論的アトム主義・ピーター・ティール・マーク・アンドリーセン

制度の実験の話の中で。 5-5 章は、新しい実践に惹かれた人々が、ネットワーク国家やチャーター都市、海上都市のように、既存の法から抜け出す形を提案してきたと書きます。本は、そうした形は広い公共財や社会の秩序とぶつかると指摘し、既存の法の中に組み込みながら実験する道を示しています[5]。→ ネットワーク国家

ワイルによる位置づけ。 グレン・ワイル は 2022 年のエッセイで、21 世紀の政治思想の一つとして「企業リバタリアニズム」を挙げました。その基本文献にバラジの講演「Silicon Valley's Ultimate Exit」を、代表人物にティールやアンドリーセンと並べてバラジを挙げています[6]。

主な考え

ここからは、バラジ自身の文章にもとづいて紹介します。

退出(exit)。 2013 年の講演「Silicon Valley's Ultimate Exit」で、バラジはアメリカを「国の世界のマイクロソフト」にたとえました。仕組みを内側から直す「発言(voice)」のほかに、オープンソースのソフトを枝分かれ(fork)させるような「退出」という選び方がある、と論じています。発言にあたるのが投票なら、退出にあたるのは移住だ、という対比です。講演では、インドで土の床の小屋に育ち、生きているうちに投票で国を変えられる見込みはないとして国を出た父の例にも触れています[7]。

ネットワーク国家。 本の短い定義はおおよそ次のとおりです。みんなで行動する力を持ち、世界中の土地をクラウドファンディング(ネットで広く資金を集めること)で手に入れ、最終的に既存の国から外交上の承認を得る、強く結びついたオンラインの共同体。バラジは、ふつうの国民国家が地図から始まるのに対し、ネットワーク国家は人の「心」から始まり、一人ひとりを一つ以上のネットワークに引きつける、と説明しています[1]。→ ネットワーク国家

ネットが先、土地は最後。 2021 年の文章「How to Start a New Country」で、バラジは物理的な土地からではなく、まずデジタルの共同体から始めるやり方を推しました。ネットで仲間を集め、国の芽をオープンソースのプロジェクトのように育てる、という進め方です[8]。

Network School。 2024 年 8 月、バラジは世界に埋もれた才能(本人は暗黒物質になぞらえて「dark talent」と呼びます)のための学校を、シンガポールの近くで始めると告知しました。貧しい国に生まれた父が、機会を得て身を立てたことを動機に挙げ、機会の平等を世界に広げたい、と書いています[2]。

AI は「多神教」。 2025 年の文章で、バラジは、一つの全能の AI(一神教的な AI)ではなく、多くの強い AI が並び立つ状態(多神教的な AI)が実際に観察されている、と論じました。汎用人工知能(AGI)は一つではなく多数ある、という見方です[9]。

どこが議論になっているか

もっと知りたい人へ

  1. 『The Network State』1.2「The Network State in One Sentence」(英語・本)— https://thenetworkstate.com/the-network-state-in-one-sentence
  2. Vitalik Buterin「What do I think about network states?」(英語・書評、2022)— https://vitalik.eth.limo/general/2022/07/13/networkstates.html
  3. Balaji Srinivasan「How to Start a New Country」(英語・ブログ、2021)— https://balajis.com/p/how-to-start-a-new-country
  4. 「Silicon Valley's Ultimate Exit」(英語・講演の書き起こし、2013)— https://genius.com/Balaji-srinivasan-silicon-valleys-ultimate-exit-annotated
  5. Siddarth・Weyl・Slaughter「We need network societies, not network states」(英語・記事、2024)— https://www.cip.org/blog/network-societies
  6. 『Plurality』2-0 章(日本語版は「IT と民主主義 拡大する溝」)(英語・本)— https://www.plurality.net/v/chapters/2-0/eng/

出典

  1. Balaji Srinivasan『The Network State』1.2「The Network State in One Sentence」(2022-07-04)— https://thenetworkstate.com/the-network-state-in-one-sentence
  2. Balaji Srinivasan「The Network School」(2024-08-16)— https://balajis.com/p/network-school
  3. 『Plurality』2-0「Information Technology and Democracy: A Widening Gulf」— https://www.plurality.net/v/chapters/2-0/eng/ [CC0]
  4. 『Plurality』7-1「Conclusion」(日本語版「結論」)— https://www.plurality.net/v/chapters/7-1/eng/ [CC0]
  5. 『Plurality』5-5「Adaptive Administration」— https://www.plurality.net/v/chapters/5-5/eng/ [CC0]
  6. E. Glen Weyl「Political Ideologies for the 21st Century」(2022-02-17)— https://www.radicalxchange.org/updates/blog/political-ideologies-for-the-21st-century/
  7. Balaji Srinivasan「Silicon Valley's Ultimate Exit」(Y Combinator Startup School 2013、有志の書き起こし)— https://genius.com/Balaji-srinivasan-silicon-valleys-ultimate-exit-annotated
  8. Balaji Srinivasan「How to Start a New Country」(2021-04-09)— https://balajis.com/p/how-to-start-a-new-country
  9. Balaji Srinivasan「AI is polytheistic, not monotheistic」(2025-08-03)— https://balajis.com/p/ai-is-polytheistic-not-monotheistic
  10. Divya Siddarth, Glen Weyl, Anne-Marie Slaughter「We need network societies, not network states」(2024-05-20)— https://www.cip.org/blog/network-societies
  11. Vitalik Buterin「What do I think about network states?」(2022-07-13)— https://vitalik.eth.limo/general/2022/07/13/networkstates.html
  12. Vitalik Buterin「Plurality philosophy in an incredibly oversized nutshell」(2024-08-21)— https://vitalik.eth.limo/general/2024/08/21/plurality.html

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