---- 講義資料
学び方のデザイン 〜問題解決の選択肢を増やす
- 灘校土曜講座 2021-06-19
- 西尾泰和
今回の目的
- みなさんの今後の人生をより良い方向に変える
- 人生は個々人の選択によって生み出される
- 特定の選択肢をすすめるのではない
- 人それぞれ置かれた状況はことなり、選べる選択肢もことなる
- みなさんが主体的に自分の判断で選ぶ、その選択がより良いものになると良い
- 自己紹介の前にまず重要な概念を先に説明しときます
- slidoの話もここでする
- 全員何か投稿する、年齢を投稿してもらおうかな
- できた人は手をあげて先生に伝える
- できてない人を周囲がサポート
- slidoの話もここでする
自分の観測範囲は限られている
- 自分に見えているものがすべてであるかのように勘違いしがち
- 遠くのものはよく見えてない
- さらに遠くのものは存在にすら気づいてない
- しばしば、過去の決断が未来の決断の機会を生み出す
- しばしば、人生に大きな影響を与える選択が、決断のタイミングでは些細なものに見える
- 人生にドラマチックな「決断」のタイミングが訪れる的なストーリー
- 読者がそれを好むから作られたもの
- 他人視点では数珠繋ぎのごく一部しか観測できない
- 少し詳しく描くと:
- 少し詳しく描くと:
自己紹介
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あんまり高校大学あたりの話をしたくない
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30代で出身高校の話をしてるのはダサい
- ああ、灘高よ…日本で一番勉強ができた子たちの「その後」
- 過去に所属した組織をアイデンティティにする人
- そこが人生のピークなのかな?
- その後の活動がその組織の中央値以下なのかな?
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今回は「今のみなさん」から「今の僕」への連続性がわかった方がいいので仕方なくやる
- 「西暦何年か」ではなく「何歳の時か」で表現した
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(12歳)灘中学に入学
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(18)京都大学工学部情報学科入学
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(20)未踏ユースに採択
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(21)NAIST博士前期課程入学
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(22)同 博士後期課程進学 (23)学振特別研究員(2年間)
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(24)博士課程修了、学振特別研究員が1年余ったので1年間ポスドクをやる
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(25)株式会社サイボウズ・ラボ入社(現在に至る)
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(29)東工大 技術経営専攻(社会人大学院生) →(33)修了
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(32)前回の灘校土曜講座
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(33)一般社団法人未踏 理事(現在に至る)
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(34)未踏ジュニア メンター(現在に至る)
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(36)エンジニアの知的生産術 出版
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(39)今!
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一般的な経歴書等に書かれるような内容を眺めた
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実はここに現れていない重要なターニングポイントがあった
19歳のとき
- 大阪で開催された研究会に参加
- これはたまたまWeb上で見かけた
- 懇親会で人工知能学会の全国大会に誘われ、参加した
- 当時、自腹で学会に参加する未成年はレアだった(知らなかった)
- ベンチャー(アントラッド)でのアルバイトを紹介された
- そこで未踏ユースの募集開始を教えてもらった
23歳のとき
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未踏卒業生が集まる飲み会
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当時できたばかりのサイボウズ・ラボのことを教えてもらった
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つまり19の時に研究会に参加してなければ
- 未踏に採択されておらず
- サイボウズ・ラボに就職しておらず
- 未踏社団の理事にもなっておらず
- 未踏ジュニアのメンターにもなってない
「エンジニアの知的生産術」出版は?
- サイボウズラボの同僚に誘われてプログラミング言語に関する1時間の講演をした(28)
- その講演資料をネットに公開した
- その資料をみた編集者から雑誌の記事を書かないか打診、引き受けた
- 好評だったので書籍にすることに
- 「コーディングを支える技術」
- 当時、東工大で技術経営を学んでいた→休学
- 顧客のニーズを理解することが大事
- →想定読者の抱えている「モヤモヤ」を集めた
- すごく大事だと思った経営学的視点の話を第0章に書いた
- が、読者がついて来れないということでカット
- その後、紙面の余白を埋めるためにコラムを書く必要が出てきて、0章の原稿から一部を掲載
- 顧客のニーズを理解することが大事
- 「コーディングを支える技術」の出版(31)後、コラムが好評だったので、雑誌で連載開始
- 出版の翌年が前回の灘高土曜講座だった
- 質疑によって考察が深まり、それが「エンジニアの知的生産術」のあちこちにちりばめられた
- 連載が好評だったので書籍化
- しばしば、過去の決断が未来の決断の機会を生み出す
- しばしば、人生に大きな影響を与える選択が、決断のタイミングでは些細なものに見える
- たまたまWeb上で見かけた研究会に参加した
- 未踏卒業生が集まる飲み会に参加した
- 講演資料をネットに公開した
- 自分の観測範囲は限られている
- アントラッドのことは知らなかった
- 未踏ユースのことは知らなかった
- サイボウズラボのことは知らなかった
- 他人視点では数珠繋ぎのごく一部しか観測できない
- 「研究会に参加してみた」とは経歴には書かない
- 「飲み会で誘われた」とは経歴には書かない
- 「資料をネット公開してたら声掛けられた」とは経歴には書かない
エンジニアの知的生産術
- 人生に大きな影響を与える選択が、決断のタイミングでは些細なものに見える
- p.227
- 現時点で目の前にある選択肢が将来的にどのような価値をもたらすか、現時点ではわからない
- 他人視点では数珠繋ぎのごく一部しか観測できない
- p.6
- 自分の観測範囲は限られている
- p.213 その他「盲点」というキーワードが使われている箇所に注目
- 過去の決断が未来の決断の機会を生み出す
- 序文 p.x
- 「自分の外」にアウトプットしたことに対する反応によって、新しい情報のインプットが得られる
受験数学と人生
- みなさんは受験数学に関しては得意な方だと思う
- 受験数学は
- 解くべき問題が明示的に与えられる
- 与えられた時間で解ける想定の規模
- 問題を解く方法の選択肢はカリキュラムで定められ、明示される
- 人生における問題解決は
- 解くべき問題を決めるのはあなた
- 問題の規模は不明
- 問題解決の選択肢は明示されない
問題解決の選択肢は明示されない
- 「そんな選択肢があるなんて知らなかった、ずるい」みたいなことをいう人がいる
- 「選択肢が明示的に与えられる」という思い込みが誤り
- 人によって知っている選択肢が異なっている、これが観測事実
- 平等にしようと考える人もいる
- たとえば子供の教育機会は均等である方が好ましいと多くの大人が考えている
- →義務教育
- たとえば子供の教育機会は均等である方が好ましいと多くの大人が考えている
- たとえば情報は複製コストが安い
- 未踏ジュニアなどの公募情報を多くの人に届けようする
- 「選択肢の情報」を広く配布している状況
- しかしこれは「情報」の複製コストの安さに依存している
- ほとんどの資源は限られている
- 例えば灘に入りたい人全員を灘に入れることはできない
- 未踏ジュニアの応募者全員を採択することはできない(倍率9倍)
- 高校生向けに総額600万の資金援助をする場合
- 高校生全員300万人に配ると1人2円
- 選抜した12人に配ると1人50万
- 前者では何も生まれない=費用対効果悪い
- 限られた資源を不平等に分配することで生まれる資源がある
- 一部の限られた人しかできない経験が存在する
- 君たちも現在進行形で「灘高校に通う」という経験をしている最中
- 一方で同時に君たちは現在進行形で「共学の高校に通う」という経験をし損ねている最中
- 全日制の高校に通う経験をしていると同時に通信制の高校に通う経験をし損ねている
- どちらの体験により価値があるか
- これは不確実である: 将来何が必要になるかを誰も正確に予見できないから
- 需要が同程度なら供給が少ない方が市場価値は高くなる
- 参入障壁なく経験できることは市場価値が低くなりがち=価値の高い体験を生み出すために参入障壁を作る
- みなさんの今後の人生の意思決定をよくしたい
- 意思決定の質が何に影響を受けるか知るために、従業員数1380人の会社で1年半に行われた83件の経営判断について、8年後に同じ経営陣にその判断の質を聞いた研究
- 選択肢が2個の場合より3個の場合の方が8年後に「良い判断だった」となるものが多い
- 一方で別の実験では選択肢が6個の場合と24個の場合で24個の方が「選べない」
- つまり「何もしない」という選択肢を選ぶ
- 明日から使えるテクニック
- 選択肢が2つで「やるか、やらないか」「AにするかBにするか」と迷ってるなら第三の選択肢を追加する
- 選択肢がたくさんで「どれが一番いいのか」と迷ってるなら、コインでも投げて数件に絞り込む
- 悩むということは現時点の予測で同程度に良さそうと評価している
- 無意識に判断を先延ばしにしてることのデメリットが大きい
選択肢をどうやって増やすのか?
- 選択肢が少ない時には増やすことが有益とわかった
- ではどうやって増やすのか?
- 今回この講演のために質問をして数百人から回答を得た
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今までの人生で「この選択肢を選んだことがその後の人生を良くした」と思う選択肢について「その選択肢をどうやって知ったのか?」を教えてください
- 大きく分けて3つある
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周囲の人から選択肢を得る
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- 周囲の人に教えてもらう
- 周囲の人の行動を見て知る
- この二つは周囲の「自分の知らない選択肢を知ってる人」から情報を得ている
- 周囲に「自分と異なる経験をした人」が必要
- しばしば「自分の周囲」には「自分と似た人」が集まってしまう
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「均質性」が、灘高を語る上での一つのキーワードになる。
- 学校の外から人を呼んで講演させるのはこの問題を解決するため
- 例: 企業で高いニーズがあるにも関わらず高校教員がそれを認識していない
- 理⼯系⼈材育成に係る現状分析データ等 経産省 産業技術環境局 ⼤学連携推進室 p.59 (赤でのハイライトは西尾による)
- 例: どの国が今日の世界経済を牽引しているか
- 「どの国が今日の世界経済をけん引しているか」と言う問いに対して「アメリカ」と答える人の割合が2008年と2017年で比較して増えているのは日本とアメリカとレバノンだけで、その増加量も割合自体も日本はアメリカより大きい。日本はアメリカ以上に「アメリカがけん引している」と思っている。
- 元データの中で、日本だけが「中国がけん引している」の割合が増えてない
- 自分が中国に対して日本での平均に近い考え方をしているなら、それは世界の中ではかなり極端な考え方なのだ。
- 自分の周囲を見て「普通」だと思うことは、観測範囲の偏りによってしばしば「普通」ではない
- この問題をどう解決するか
能動的に観測範囲の外を見に行く
- 自分の観測範囲が限られていることを自覚
- 移動することによって自分の観測範囲を広げる
- 具体的には?
- 国とか地域とか学校とかの「境界」を超える
- みなさんの中には「自分が優れた人間だ」と思ってる人もいるかもしれない
- 実際、観測事実として受験数学などの一部の尺度ではトップレベル
- しかしその一つの尺度だけ見ていると狭い世界になる
- IT活用力はどう?
- 世の中には何年も前から全校生徒にiPadを配布してる学校がある
- クラスの連絡ごとがLINEになっていて生徒が自作のBotで色々な自動化をやってる高校もある
- 今年N高校が初めた「普通科プレミアムコース」
- Oculus Quest2 を生徒に配布
- 生徒はアバターになってVR空間上の教室で授業を受ける
- VRタイムシフト機能(非同期で再生)
- この取り組みでN高校の東大進学率は上がらないだろうが、VRに関する分野ではこの経験が有益だろうね
- このように世の中は多様で、同年代でも多種多様な「自分と違う経験」をした人がいる
- 未知のものを得るには、未知のものを高く評価する気持ちが必要
新型コロナの影響
- 多くのイベントがオンライン化している
- 地方の中高生にとっては地理的格差を埋めるチャンス
- 一方で「中高生を集めて合宿」系の事業は苦労してる
- 物理的に集まってワイワイする機会が作りにくい
- オンラインのコミュニティでどの程度代替できるかチャレンジしている
- オフラインでは存在するだけで存在感が出るが、オンラインでは能動的に発信しない人間は「存在しない」も同然
能動的に発信
- 人間は他人の内面を見ることができない
- アウトプットしたものしか見ることができない
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- 自分にマッチする情報を教えてもらうためには、自分がどういうことをしたいのかを知ってもらう必要がある
- 言葉にしてアウトプットするスキルが必要
- スキルの習得には実践が必要
- キャッチボールのスキルはボールを投げてみて、思ったところに飛ばない経験をし、それを修正することによって鍛えられる
- 言語化して伝えるスキルも、伝えようとしてみて、思ったように伝わらない経験をし、それを修正することによって鍛えられる
- 採択の裏には倍の不採択がある
選択肢がなかった人
- 今回の調査で「選択肢がなかった」という意見もあった
- 選択肢は平等に与えられるものではないので、本当になかった人もいるかもしれない
- 「選択肢は与えられるもの」と思い込んで、選択肢を得るための行動をしなかったのでは?
- 「選択肢の将来価値は選択の時点で分かる」と思い込んで、価値の不明瞭な選択を避けてしまったのでは?
- 価値が明確で広く知られている選択肢は大勢の人がそれを選ぼうとするから競争的になる
- みなさんが2〜30年経ってから自分の人生を振り返った時に「選択肢なんてなかった」「他人が引いたレールの上を走っただけの人生だった」にならないといい
自分の人生を主体的に生きる
- 他人の期待を満たすために生きても自分の期待は満たせない
- 自分がどうしたいのか
- 自分がどうなりたいのか
- 自分で考えなければならない
- あなた以外にはできない
- あなた本人がそれを言語化できなければ、他人が手助けすることは困難