- 2018-03-24 MANABIYAにて基調講演した
- 講演資料(PDF)
- エンジニアのための自分経営戦略_参考文献
- 「数学ガール」などの著者、結城浩さんから以下のコメントを頂きました。出典: hyuki
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これは素晴らしい講演資料。エンジニアに限らず読むといい。現代で学ぶためのヒント多数。
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エンジニアのための自分経営戦略
2018-03-24 MANABIYA基調講演 2018-04-17図を改訂
サイボウズ・ラボ/ビープラウド技術顧問 一般社団法人未踏理事 博士(理学)/技術経営修士(専門職) 西尾泰和
自己紹介 2
コーディングを支える技術 3
2013年発売 陳腐化しにくい知識にフォーカス 5年経った今でも売れ続けている
小学生向 け 4
“30日でできる! OS自作入門”の川合さん(同僚)と共著” コーディングを支える技術”を小学生向けにしたような本 2018-03-28発売
5 「出荷作業8時間を1秒に」三浦市農協で起きた驚異の進化 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/12062
- 西尾泰和2006年、24歳で博士(理学)取得。
- 2007年よりサイボウズ・ラボ株式会社にて研究開発に従事。
- 著書に「word2vecによる自然言語処理」などがある。
- 2014年に技術経営修士を取得。
- 2015年より一般社団法人未踏の理事を兼任。
- 2017年よりビープラウド株式会社にて機械学習の技術顧問を兼任。
サイボウズ 三浦市農協配車システムアルゴリズム - 各農家からの出荷を約50の市場へ配送する際の、各トラックにどの品目を何ケース積載するかの配車プランを自動作成するアルゴリズムを開発。 - 人手での作業を1日当たり8時間削減した。PyQの機械学習の講座を監修した。
ビープラウドPyQ機械学習講座監修 - PyQは、Pythonプログラムをブラウザ上で書いて実行できる仕組みで、実際に手を動かしてPythonを学べるサービス。https://pyq.jp/
講演資料「if文から機械学習への道」 機械学習を身近に感じられない聴衆のために、if文と機械学習の間を一歩ずつ進むことで地続きにする講演。後半に実務で使う上での注意点。 2017年9月公開以来、8万view以上ある人気の講演資料
7年前に大きな転機 7
2011-04〜2014-09 社会人大学院生として 東京工業大学イノベーションマネジメント研究科技術経営専攻専門職学位課程入学→修了
考え方や物事の見え方に大きな変化があった。
何を学んだか知りたい? 8
技術経営専攻でどんなことを学んだのか 詳しく知りたいというリクエストはあったが、伝え方がわからなかった。
僕自身が3年半掛けて学んだことを1時間程度の限られた時間で伝えるのは難しい。 →今回は「最初の一歩」に注力して解説
今回の目的 9
•みなさんの今後の人生を良くする。 今日明日ではなく、510年後の果実。
•そのために今、種をまく。最初の一歩の行動に注力して解説。
•もっと学びたい人はアフターフォロー。
アフターフォローのしくみ 10
Facebookに「180324エンジニアのための自分経営戦略」というグループを作ってある
講演スライドは後でこのグループに投稿する。 質問に答えたり、追加情報を投稿したりする。
新しいことを学ぶ 11
新しい学びの対象を前にしてよく言われること 「学んだ方が良い気がするが、時間がない」
きこりのたとえ 12
きこり「木を切るのは大変な仕事だ。すごく時間がかかる、クタクタだ」 旅人「少し休んでノコギリの刃を研いだらもっとはかどりますよ」 きこり「切るのに忙しすぎて刃を研ぐ時間なんてないんだよ」
7つの習慣 スティーブン・コヴィー
新しいことの不安 13
- [[新しいこと]]をやるのが[[不安]]
- 「やることによって何が得られるか」が不明確だから不安
- 新しいことをやるのにかかる時間が不明確だから心の負担が大きい
基本戦略:損失額の限定 14 - 結果が不確実な投資を行う場合は損失を小さく限定する - 悪い例:この本を全部理解しよう - 良い例:この本をまず15分眺めてみよう - 良い例:まず1時間の講演を聞いてみる - →失敗だったとしても1時間を失うだけ みなさんは「経営戦略を学ぶために講演を聞く」という意思決定をしたわけだ。
- ref. リアルオプション
経営戦略とは何か 15
限られたリソースを何に配分するかの意思決定#リソース配分#資源配分
多種多様な定義があるけど今回は広く浅く説明するのではなく1点を掘り下げる - 戦略サファリ
法人でも個人でも同じ 16
法人でも個人でも限られたリソースを 何に配分するかの意思決定が必要なのは同じ
自分個人の経営に注力 17
- 今回は法人ではなく個人の経営に注力
- 大きなものを動かすのは難しい。小さくて簡単なもので試して知識を獲得しよう
- プログラミングの学習でも小さいコードで実験をして学ぶ。スモールスタート。
エンジニアのための自分経営戦略 18
•“個人のリソース配分” •“リソース”ってなんだ? •法人経営の文脈では「ヒト・モノ・カネ・情報」とか言われたりするが…
列挙を疑え 19
- 列挙を見たら「これで全部か?」と問おう
- 全部でないものを全部だと思い込むと無意識のうちに選択肢を見落としてしまう
- 今回「知識を得るために時間を配分」してみなさんはこの場にいる。つまり「時間」がリソース。
配分をして何を得たいのか 20
- 「何を得たいか」は経営者が決める
- 収益、競争力、従業員満足度、…
- あなたが何を得たいのかあなたが決める
あなたは知識に価値を感じている 21
•1時間の講演を聞く時間で、 コンビニでバイトをして1000円くらいを手に入れることもできた
•あなたは、自分の限られた「時間」を 「知識」の獲得に配分するという意思決定を行ってここにいる
•つまり知識に価値を見出している。自分の価値観と経営判断を自覚しよう。
知識とお金の違い 22
-
あなたの「知識の獲得に投資」は筋の良い経営判断だ
-
お金は使うとなくなるが、知識は使ってもなくならない
-
時間を「生きるために最低限必要なお金」
-
の獲得に使った残りの「余裕時間」を知識の獲得に投資する戦略
ref.ドラッカー「ポスト資本主義社会」
知識獲得戦略 23
これを言語化し掘り下げていこう
知識獲得の3タイプ 24
- 1:教えてもらう
- 2:自分で行動する
- 3:知識交換のネットワークを作る
関連: 依存、自立、相互依存(7つの習慣)
教えてもらう学び 25
知識 先生→生徒
•先生に負担が集中 •知識の流れが一方通行
一人で本を読むのもこれに相当
自分で行動しての学び 26
行動の結果から学ぶ 27
-
PDCAサイクル: Doして結果をCheckすることで学ぶ
-
リーン・スタートアップ 最小限の製品を素早く作って顧客の反応から学ぶ
-
プログラマの学び方: プログラムを書いて実行/コンパイルして結果を見て学ぶ
知識の交換によって学ぶ 28
- [[知識が双方向に流れる]]
- 負担が分散される
知識交換の必要条件=相手と違うことを知っている 30
周りと同じものを学んでいても知識交換できるようにならない 周りと同じものを学んでも知識交換はできない #知識の分布図
同じものを提供する人が多いほど提供者の立場は弱くなる 31
- 売り手有利 あなた有利
- 買い手有利 あなた不利
ref.マイケル・ポーターのファイブフォース分析
狭き門から入れ 32 - 周囲に「何を学んだらいい?」と聞いて大勢が大事だと言ったものを学ぼうとする人が多いが… - 「狭い門から入りなさい。滅びに至る門は大きく、そこから入る者が多いのです。」* - 限られた時間を「大勢が学んでいるもの」に投資しても競争優位につながりにくい。 - (市場開拓コストが低いというメリットはある) *マタイによる福音書7章13節
社外に交換相手を作ろう 33
•知識の交換のための必要条件「相手と違うことを知っている」 •社内の人とは知識が共通になりがち •違う会社、違う業界、など立場の違う人となら「知識交換できる関係」になりやすい
社外の勉強会に参加 34
勉強会という形で半分ぐらい実現されてる
•立場の違う人との知識のやり取り◎ •勉強会の間だけの一時的なグループ× •発表者が情報発信の大部分をしていて知識交換になっていない×
→もっと持続的で双方向的なものを作りたい
知識交換のネットワークづくり 35
•効率よい知識獲得のための双方向で持続的なコミュニケーションの場 •互いの状況を理解して知識を与え合う関係の仲間が欲しい •そのための最初の一歩: 小さい非公式グループを作りあなたが発信者になる
なぜこれが良いのかをここから解説する
まずここを説明する 36
小さい非公式グループを作りあなたが発信者になる
なぜ小さいグループ? 37
•グループとかコミュニティという言葉で大勢の人がいる大きなものをイメージしがち •これは大きいものの方が観測しやすいから* •大きいことにはデメリットがある
*小さいものもたくさんあるのに、それらの大部分があなたの視野に入っていない
質問に回答する例 38
- グループが大きいと、言葉と状況が切り離される
- 質問者が無数にいたら質問者の状況の理解に時間を割けない
- 質問者の状況を理解せず質問者の言葉に対して回答する ref. 状況に埋め込まれた学習
状況理解のメリット1 39
- 質問者が何をどれくらい知っているか回答者が理解して(いる/いない)時を比較
- 回答に掛かるコストが下がり、質問者が真に求めていたものを回答者が提供できる確率が上がる。
- 効率よい知識交換
状況理解のメリット2 40
- AさんにXについて相談された時に 「Bさんが前にXについて調べてたな」と思い出して、AさんとBさんをつなぐ
- これには「Bさん」についての理解が必要
- この「仲介」によって双方向の知識交換が促進される
ゲートを置く 41
- 小さいグループを作る有益な手段の一つ:ゲートを置く(参加できる人を限定する)
- ゲートを置かない(誰でも参加できる)のとゲートのあるので何が違うのか? #ゲーテッドコミュニティ
フリーライダーの発生 42
- ゲートのない有益なグループがあったとする
- 有益さにひかれて人が集まる
- 大部分の人は「取る」ために来ていてグループに「与える」行動をしない
- 限られたリソースを大部分の「取る人」が食いつぶしてしまう
情報共有は例外的に、取る人が10人でも100人でも 情報提供者のコストが増えないのでこういう状態でもまわったりする。 ref.共有地の悲劇
OSSコミュニティの二重性 43
- この問題を解決するための[[二重コミュニティ]]
- 自由にユーザコミュニティに入れるが自由にコミッターになることはできない
- そのコミュニティ内で場を富ませるために「与える」活動をした人だけが選抜されゲートの中に入る
これを参考にしよう
ここまでの説明 44 小さい非公式グループを作りあなたが発信者になる
ここからの説明 45 小さい非公式グループを作りあなたが発信者になる
なぜグループを自分で作るのか 46
•誰かの作ったグループが 「あなたが入ることができて、しかも大人数でない」という状態である可能性はとても小さい。 •非公開グループの形を取っているとあなたは存在に気付くことすらできない。 •なので、自分で作るしかない。
最初はひっそり非公式でよい 47
•最初からしっかりした組織を作ろうとするとハードルが高い •スモールスタート! •ひっそり始めるとそれ自体がゲートとして機能する
互恵的コミュニティにするために 48
•まずはあなたが「与える」側をやる •Give & TakeはGiveから始まる •まずは他のメンバーにこのイベントで見聞きしたことを伝えるなど 「他のメンバーが持っていない情報を提供」するところから始める •他のメンバーもGiveしてくれたら大成功
次の一歩 49
•小さい非公式グループを作りあなたが発信者になる •複数のグループに所属する •思い出しトリガーをセットする
なぜ複数のグループ? 50
•メンバーの異なる複数のグループに属するとあなたが知識の流れるパイプになる •知識は水と違って、仲介者にも溜まる
仲介による価値の創出 51
•あなたがグループAで得た知識をその知識に飢えてるグループBで発信する グループBの人たちは喜ぶ=顧客価値創出 •仲介の実践経験を積むことで何に仲介する価値があるかを判断する力が鍛えられる •ググって手に入る情報を仲介しても価値にはつながらない
質疑から補足 答えをコピーしても無益
数の組織に所属するメリット 52
知識の交換には周囲が持っていない知識をあなたが持つことが必要 その「周囲」が複数あると?
それぞれの組織で知識交換可能 53
これを与えてこれを貰う これを繰り返すと…
複数の分野を知ってる人材 54 「連続スペシャリスト」や「π型人材」とも呼ばれる
55 Q:でも「専門性を伸ばすことが大事」ってよく聞くのだけど???
技術進歩による海面上昇 56
技術の進歩で「手軽に入手できる知識」(海面)のレベルが10年前よりだいぶ上がった
この海面の上に出ないと知識交換に参加できない だから専門性を育てるのが大事と言われる
専門性のレベル 57
でもこの「専門性」という言葉はあいまいでどの程度までやればいいのか明確でない 海面から顔を出すために、ググっても入手できない知識を持つ必要がある
- 専門性という言葉でイメージするよりもだいぶ低いハードルだ
車の両輪のように 58
行動して知識を得る
- 行動・実験を通じてググれない知識を得る
他人と知識交換
- ググれない知識を与えて、別の知識を得る
次の一歩 59
- 小さい非公式グループを作りあなたが発信者になる
- 複数のグループに所属する
- 思い出しトリガーをセットする
なぜトリガー? 60
- 時間が経ってから価値がわかることがある*
- 長期記憶は半年1年ぐらい経って忘れてからもう一度触れた方が定着しやすい
- グループを作ってすぐはテンション高くて活動が盛んだが、だいたい三日坊主になる
だから時間が経って忘れたころに思い出させる
*MOTを修了した直後に「学んでどう役に立った?」と聞かれて「視野が広がった」「書いてた本で、今までと違う意思決定をした」などと答えて「ふーん」みたいな反応だった。 補足: 言葉が熟す アウトプットを焦ると劣化コピーになる
1年後のトリガー 61
- 投稿がなく、投稿がないので通知もなく、 誰もそのグループのことを思い出さず、だから投稿しない、というサイクル
- 投稿によって再び息を吹き返すことがある
- 「1年経った」を投稿の口実に使う
1年後のフィルタリング 62
- フリーライダーが多くなってしまった場合
- 1年間の活動実績を見て、Giverを集めて「濃縮グループ」を新しく作る
- 濃縮グループの方が良いと思う人が多ければそちらで活動が行われ、旧グループは自然消滅する
非公式グループは作るコストが安いだけでなく、自然消滅できて終了コストも安い
見直しの機会 63
- 多くのことは失敗する
- 着手したことがうまくいかなかった時にただ忘却するのではなく、 1年後に振り返ることで大きな学びが得られる
- しかし人間すぐ忘れるので、着手時に思い出しトリガーをセットする
まとめ 64
あなた自身の経営 65
- あなたは「知識を得るために時間を投資」という経営判断を行った
- あなたはこういうリソース配分の意思決定を日々繰り返している、これが経営
- 経営学にも知識獲得を重視する考え方があり色々な議論と知見がある
あなた自身の知識獲得戦略 66
- 学び方には3タイプあり、「教えてもらう」と「行動して学ぶ」は多くの人が経験済みだろう
- 見落とされがちなのが「知識交換」
- これを行うために、互いの状況を理解して知識を与え合う関係の仲間が必要。どうやって作るのか?
最初の一歩 67
- まず小さい非公式グループを作りあなたが発信者になる
- 複数のグループに所属し、知識の流れるパイプになる
- 思い出しトリガーをセットし、1年後に振り返る