ジャロン・ラニアー(Jaron Lanier)ってどんな人?
無料で使えるネットのサービスは、代わりに私たちのデータを受け取っています。そのデータを作ったのは誰で、その人は何かを受け取るべきではないのか。この問いを早くから投げかけてきたのが、VR(仮想現実)の開拓者として知られるこの人です。
ひとことで言うと
ジャロン・ラニアー(Jaron Lanier)は、1980 年代に「バーチャルリアリティ」という分野を切り開いた計算機科学者・作家です[1]。ネットで無料のサービスと引き換えに差し出しているデータにも、作った人がいます。ラニアーは、データを作った人と結びつけ、場合によっては対価を払おう、と唱えています。これが「データの尊厳」です[2]。
Plurality とのかかわり
推薦者。 本の推薦文に名前を連ねています。肩書きは、VR の発明者、『Who Owns the Future?』などの著者、Microsoft の CTO 室の科学者です[3]。本の 6-1 章の脚注は、グレン・ワイル の Microsoft での肩書きが、同僚のラニアーの肩書きと対になっている、と書いています[4]。
「失われた道」を歩んだ一人。 本の 3-3 章「失われた道」は、ラニアーを、AI の先駆者マーヴィン・ミンスキーの教え子であり批判者で、AI と同じ野心を人間の経験とコミュニケーションに向けた人として描いています。1980 年代の研究と起業が、VR という分野になったとも書きます[1]。
同じ章によれば、ラニアーは、コンピューターの先駆者テッド・ネルソンのインターネット批判を受け継ぎました。いまのインターネットには、お金を払う仕組みも、データを安全に分け合う仕組みも、そのデータがどこから来たかをたどる仕組みもない、という批判です。本は、この主張がビットコインの登場と重なって、web3 の取り組みを後押しした、と述べています[1]。
言葉の生みの親。 本の 5-1 章は、「ポスト表象コミュニケーション」という言葉をラニアーの造語として紹介しています[5]。
ワイルとの共同。 2018 年に「A Blueprint for a Better Digital Society」(HBR)を、2020 年に「AI is an Ideology, Not a Technology」(WIRED)や、台湾のコロナ対応を論じた Foreign Affairs の論考を、ワイルと書きました[6][7][8]。
主な考え
データの尊厳。 無料サービスとデータを引き換える今の仕組みの代わりに、デジタルのものを作った人とそのものを結びつけ、場合によっては対価を払う、という考えです。ラニアー自身は、これが「data as labor(労働としてのデータ)」や「plurality research」とも呼ばれている、と書いています[2]。ワイルとの HBR の記事では、個人の代わりにデータの条件をまとめて交渉する団体を提案しました[6]。→ データの尊厳
「AI は存在しない」。 2023 年の The New Yorker への寄稿で、いまの AI は独立した知性ではなく、人々の協力の新しい形として見るべきだ、と主張しました[2]。本の 生成基盤モデル の章と読み比べると、考えの近さと違いが見えてきます。
記号を越えて経験を分かち合う。 言葉や絵のような記号を越えて、触れた感じや体の感覚まで含めて経験を分かち合う、という方向です。本はこれを 5-1 章と 5-2 章で扱い、ラニアーが共著の VR の研究も引いています[5][9]。→ 没入型共有現実
群衆をあがめることへの批判。 2006 年のエッセイ「Digital Maoism」で、ラニアーは、名前のない集団をあがめる風潮を批判しました[10]。「集合知」を無条件にほめない立場です。
もっと知りたい人へ
- TED2018「How we need to remake the internet」(英語・講演)— https://www.ted.com/talks/jaron_lanier_how_we_need_to_remake_the_internet
- The New Yorker「There Is No A.I.」(英語・論考、2023-04-20)— https://www.newyorker.com/science/annals-of-artificial-intelligence/there-is-no-ai
- 書籍『Plurality』3-3「The Lost Dao」(英語・本。日本語版は「失われた道」)— https://www.plurality.net/v/chapters/3-3/eng/
- Lanier & Weyl「A Blueprint for a Better Digital Society」(英語・記事、HBR 2018)— https://hbr.org/2018/09/a-blueprint-for-a-better-digital-society
- Edge「Digital Maoism」(英語・エッセイ、2006)— https://www.edge.org/conversation/jaron_lanier-digital-maoism-the-hazards-of-the-new-online-collectivism
出典
- 『Plurality』3-3「The Lost Dao」— https://www.plurality.net/v/chapters/3-3/eng/ [CC0]
- Jaron Lanier「There Is No A.I.」(The New Yorker、2023-04-20)— https://www.newyorker.com/science/annals-of-artificial-intelligence/there-is-no-ai
- 『Plurality』推薦文 — https://github.com/pluralitybook/plurality/blob/main/contents/english/0-0-endorsements.md [CC0]
- 『Plurality』6-1「Workplace」脚注 — https://www.plurality.net/v/chapters/6-1/eng/ [CC0]
- 『Plurality』5-1「Post-Symbolic Communication」— https://www.plurality.net/v/chapters/5-1/eng/ [CC0]
- Lanier & Weyl「A Blueprint for a Better Digital Society」(HBR、2018)— https://hbr.org/2018/09/a-blueprint-for-a-better-digital-society
- Lanier & Weyl「AI is an Ideology, Not a Technology」(WIRED、2020)— https://www.wired.com/story/opinion-ai-is-an-ideology-not-a-technology/
- Lanier & Weyl「How Civic Technology Can Help Stop a Pandemic」(Foreign Affairs、2020-03-20)— https://www.foreignaffairs.com/articles/asia/2020-03-20/how-civic-technology-can-help-stop-pandemic
- 『Plurality』5-2「Immersive Shared Reality」脚注 — https://www.plurality.net/v/chapters/5-2/eng/ [CC0]
- Jaron Lanier「Digital Maoism」(Edge、2006)— https://www.edge.org/conversation/jaron_lanier-digital-maoism-the-hazards-of-the-new-online-collectivism
記事の間違いや、知りたいこと(「〜ってなに?」)を受け付けています。送られた内容は公開の issue になります。