エンジニアの知的生産術 P.160、(5.2.4.5) 分類で負担を減らすメリットの後に入る加筆

image Fig: A family

「家族」はグループです。このグループのメンバーの全員に共通する特徴は必ずしもありません。すべてのメンバーに共通するような特徴がなくても、部分的に共通する特徴によって全体が緩くつながり、グループを形成することができます。

家族的類似性」という言葉はルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインが作った。彼は「ゲーム」という言葉が指すもののグループが、共通の特徴を持っているかどうかを考察し、すべてのゲームに共通する特徴があるのではなく、互いに重なり合う複雑な類似性の網目があるのだ、と主張した。家族的類似性でつながったグループのことをシンプルに「家族」と呼んだ。

私はこう解説した:

関係のありそうなものが見つかったら、その2つのふせんが近くに来るように移動します。これを繰り返すことで、互いに関係のありそうなふせんのグループが徐々に形成されていきます。 エンジニアの知的生産術 p.152

分類は「グループに共通する特徴」(criteria)を先に決めて、その特徴の有無でグループのメンバーかどうかを決める。一方でKJ法のグループ編成は、個々のメンバーの間に関係があるだけで、共通の特徴は必要でない。これは家族的類似性の考え方によく似ている。

「共通の特徴を持ったグループを作らなければいけない」というとらわれを解除するアドバイスが必要そうだ。


家族的類似性に関して面白い実験がある。

  • Norenzayan, A., Smith, E. E., Kim, B. J., & Nisbett, R. E. (2002). Cultural preferences for formal versus intuitive reasoning. Cognitive science, 26(5), 653-684.

image ターゲットオブジェクトはどちらのグループに似ているか?この質問に対して、European AmericansとEast Asiansは真逆の回答をした。 image

2通りの考え方を掘り下げてみよう。

この花には4つの属性がある

  • 属性1: ターゲットの花びらは丸い、グループ1は3/4の花びらが丸い、グループ2は1/4の花びらが丸い
  • 属性2: ターゲットの花の中心は一重丸、グループ1は3/4が一重丸、グループ2は1/4が一重丸
  • 属性3: ターゲットには葉がついている、グループ1は3/4に葉がついている、グループ2は1/4に葉がついている
  • 属性4: ターゲットの茎はまっすぐ、グループ1は0/4の茎がまっすぐ、グループ2は4/4の茎がまっすぐ

この状況で、ターゲットをグループ1に入れるか、グループ2に入れるか。

  • Rule-based: 属性1~3はグループを明確に切り分けるものではない。属性4こそがこの2つのグループを分ける基準であり、その基準に従えばグループ2に入れるべきだ、という考え方。
  • Family resembranse-based: 4つの属性のうち3つが「グループ1の方が近い」と示しているのだから、グループ1に入れるべきだ、という考え方。

興味深いことに、似ているのはどちらか、ではなく、どちらに分類すべきか、という問いだとEast AsianもRule-basedの判断をする。つまりEast Asianは分類と類似を別物だと考えているのに対して、European Americansはそれを区別していないということだ。

Rule-basedは判断の理由を他人に説明しやすい。「茎がまっすぐならグループ2である」という明確な命題にすることができる。一方で、ノイズに弱い。この例では属性4できれいに切り分けることができたが、もしノイズが入って属性4でも切り分けることができなかった場合、Rule-basedでは「この2つを区別する明確な基準は存在しない」という思考停止に陥る。また、属性の一部が観測不能である場合にも弱い。たまたま属性4が観測できなかった場合は判断が逆転する。

Family resembranse-basedは、ノイズにも強く、観測不能にも強い。しかし判断の理由をシンプルに説明できない。あえて説明するなら「花びらが丸ければグループ1に1票、花の中心が一重丸ならグループ1に1票、葉がついていればグループ1に1票、茎がまっすぐならグループ2に2票。合計して票の多かった方のグループとする」というルールになる。

KJ法は日本というEast Asiaで生まれた。川喜田二郎は「分類ではない」を強く主張した。家族的類似性の考え方を知ることで、ヨーロッパ系の人にわかりやすくなるのではないか。