エンジニアの知的生産術 加筆案

解決したい問題

  • エンジニアの知的生産術 P.155の 「グループ編成には発想の転換が必要」が伝わりにくい
  • 私がワークショップで観察していると、KJ 法のステップの中で一番戸惑 う人が多いのはグループ編成のようです。おそらく情報処理についての考え方を大きく変える必要があるからです。この項では、どう考え方を変えるべきかを解説します。

  • この「発想の転換」「考え方を大きく変える」に関して、色々書いたがあまり伝わっていない
    • 具体的なエピソードを紹介した方がわかりやすくなると考えた。

グループ編成はKJ法が有益な効果を生むためにとても重要なパートです。 しかし、しばしば間違って無益な方法でやってしまう人がいます。 何のためにこれをやるのか?それは集めた情報から、まだ自分が持っていない構造を発見するためです。 そのためには、客観的にトップダウンで分類をするのではなく、主観的にボトムアップでグループ編成をする必要があります。処理の方向を逆転する必要があるのです。

  • (推敲コメント: ここで方向の話と主観客観の話を同時にしているのはわかりにくいかもしれない。主観・客観を削っても良いかも。)

具体例

まずは具体例を挙げます。私は、結婚相談所の所長の考えをまとめるお手伝いをしたことがあります。 その所長は男女の間のコミュニケーションについて考えをまとめたかった。そこで、まず100枚の付箋を用意してもらい、それから2時間の会議をすることにしました。

会議当日、彼の第一声は「分類を考えてきました」でした。その分類とは以下のようなものでした。

  • 男性・女性
  • パッシブ・アクティブ
  • 気持ちと行動

これはKJ法をやる場合の典型的な失敗です。先に分類基準を決めて、それに合わせて分類しても、分類基準が再現されるだけです。

そこで私は、こうアドバイスしました。

  • 考えてきた分類基準は一旦脇に置く
  • (1)100枚のピースを広げる
  • (2)100枚のピースを眺める
  • (3)関係してそうな2枚のペアを1組見つける
  • (4)それを作業スペースに移動する

彼は広げた付箋を眺めて、1つのペアを選びました。 image

次に、

  • (5) 私は「なぜこの2つが関係してそうだと思ったのか?」と質問しました。
  • (6) そして彼の話すことを聞き、その発言の中に出てきたキーワードを新しい付箋にしてもらいました。

これはグループ編成のプロセスを最小限の時間で通して体験してもらったわけです。(*1)

  • まず、分類をするのではなく、付箋を見て、関連してそうなペアを1つ見つける。2枚のペアは最小限のグループです。これがグループを作る「ラベル集め」のフェーズです。
  • 次に、なぜそれらの付箋が一つのグループに入っているのかを説明する。そして、その説明を簡潔にして新しい付箋を作る。これは「表札作り」のフェーズです。

こうやって、2枚からなるグループとその表札の3枚の付箋が作業スペースに置かれました。まだ枚数が少ないので、この段階では束ねることはしませんでした。

image

私の次のアドバイスは「残りの付箋の中に、この3枚に関係してそうなものはあるか?あればピックアップして、近くにおいて」でした。これはタスクを小さく、ゴールを近くするアドバイスです。「グループ編成をしよう」というゴールは曖昧で遠いですが、「残りの付箋の中に〜があるか?」は残りの付箋に目を通せば完了するので、もっとやりやすいわけです。(*2)

  • image

あとはこれの繰り返しです。(2)に戻り、まだグループになってない付箋を眺めて、関係のありそうなペアを1つ見つけます。

この作業を3回ほどやると、彼は「関係してそうなものを見つけて近くに置く」というプロセスのコツを掴んだようで、私が指示や質問をしなくても彼一人で作業を続けることができました。

しばらくたって、16個のグループが編成されました。平均6枚です。3枚だけのグループもあれば、10枚以上が集まったグループもありました。(*3)

私はそれぞれのグループについて「このグループはどのようなグループなのか?」を質問して解説を聞きました。解説が長ったらしい場合には「簡潔に言うと?」と聞いて短くし、解説が一単語の場合には掘り下げる質問をして長くし、適度な長さの表札を作る過程を支援しました。 たとえば「このグループは何ですか?」「『無関心』のグループです」「その『無関心』は、どのような『無関心』ですか?」「相手への無関心ですね」のように。(*4) その結果、例えば以下の表札が得られました:

  • 相手への無関心
  • 考えなしに動く
  • 見た目を重視する

グループ編成をする前に彼が考えていたことと比べてみましょう。彼は最初、「男性・女性」「パッシブ・アクティブ」のように、付箋全体を分割する「切り口」をいくつか考えていました。 これは既に持っている構造であり、それを付箋に押しつけるトップダウンの分類です。一方、今回のグループ編成で彼が体験したのは、1枚ずつの付箋をくっつけていき、16個、平均6枚のグループを作ることでした。これがボトムアップのグループ編成です。

image 図: トップダウンとボトムアップ

彼はこのあと、16枚の表札に対して改めてグループ編成を行い、最終的に4つのグループになりました。この段階で各グループは、トップダウンでの分類で2分割を2回したのと同じくらいのサイズになっています。それでは、このグループの表札は当初考えていた2分割を2つ掛け合わせた「パッシブ×男性」などになっていたでしょうか?そんなことは全くありませんでした。例えば「自分の手の届く範囲から出たくない」という人間の行動パターンが、24枚の具体的な事例の付箋から抽出されていました。

このように、トップダウンの分類と、ボトムアップのグループ編成は進む方向が逆です。KJ法の中でやるのは、ボトムアップのグループ編成の方です。なぜなら、KJ法は未知のパターンを発見するための方法であって、既知のパターンに合わせて付箋を分類することは新しいパターンを発見する妨げになるからです。

*1: (6.3.1) 最小限の実現可能な製品 *2: (1.2.2.2) チュートリアルはゴールを近くする *3: この10枚以上の大きなグループは、表札をつける時に後に回し、小さくてすぐに表札の出てくるグループに表札をつける作業を先にしました。そうこうするうちに「このグループは分解したほうがいい」という気持ちが表れました。 *4: (6.2.4.2) Clean LanguageとSymbolic Modelling