権利 OS ってなに?
スマートフォンのアプリは、iOS や Android といった OS(オペレーティングシステム、基本ソフト)の上で動いています。OS が「できること」の範囲を決め、アプリはその中で動きます。書籍『⿻ Plurality』は、民主主義にとっての OS は「権利」だと考えます。そして、暮らしの多くがネットに移った今、その OS もデジタルの形で作り直す必要がある、と主張します。
ひとことで言うと
権利 OS は、民主主義を動かす土台である「権利」を、OS にたとえた言葉です。本の第 4-0 章「権利、オペレーティングシステム、⿻的自由」の考え方です(「権利 OS」はこのサイトでの短い呼び名で、本の表記ではありません)。
本によれば、オンラインで暮らす時間が長くなった今、その土台はネットのしくみ(プロトコル、通信の決まりごと)そのものになっています。だから権利を、デジタルの「共通のしくみ」として作り直そう、というのが本の考えです[1][2]。
たとえば
足りない土台。 本は、執筆の時点の状況として、次のようなことについて「広く使われていて、特定の会社のものでない」共通のしくみが無い、と指摘します[3]。
- オンラインで自分が誰かを示すこと(ID)
- グループをつくって話し合うこと
- 実際の買い物の支払いをすること
- 計算の力やデータを安全に貸し借りすること
本によれば、その多くは国か、ごく少数の民間企業が握っています[3]。
芽生え。 一方で本は、インドの「India Stack」のような国のデジタル基盤、ヨーロッパのデータ共有の枠組み、分散型のウェブ、各国のデジタル通貨や支払いのしくみを挙げます。まだお金が足りず、ばらばらだけれども、「Plurality を体系的に目指せる」ことを示す試しだ、と本は見ています[4]。
言論の自由の変わり方。 情報が少なかった時代は、「検閲されないこと」が言論の自由の中心でした。でも情報があふれ、人の注意の方が足りなくなった今は、都合の悪い声を消すには、検閲するより、気を散らす雑音で情報の空間を埋める方が簡単です。本は中国政府の投稿についての研究を例に、そう書いています。だから言論の自由の守り方も、それに合わせて変わる必要があるだろう、と本は見ています[5]。
くわしく
権利と OS の似ているところ
本によれば、権利と OS には次のような共通点があります[6]。
- どちらも、上に載るもの(民主主義/アプリ)が「できること」の範囲を区切る土台です。
- どちらも、壊されないように特別な守りが要ります。
- どちらも、しばしば少なくとも一部は「こうあってほしい」という願いにとどまり、中に緊張を抱えています。
- どちらも、強い仕組み(法律の執行など)と、広く共有された文化の両方に支えられています。
また本は、権利は国だけのものではないと言います。裁判所、会社、市民の団体など、いろいろな大きさの組織が権利を支えていて、どれか一つが「おおもと」なのではない、というのです[7]。
なぜ民主主義に権利が要るのか
本は政治学者ダニエル・アレン(Danielle Allen)の議論にもとづいて、こう説明します。人々が安心して自由に意見を言えなければ、政府はそれに応えられません。自由に集まれなければ、力を持つ者に異議を唱えるために協力することもできません。だから、権利が無ければ選挙はお芝居になってしまう、というのです[7]。
Plurality の権利の二つの特徴
一つ目は 変わり続けること です。土台を作った人は、それがどう使われ、どう悪用され、どう作り変えられるかを前もって知ることはできません。OS がアップデートを重ねるように、権利も進化していくべきだ、と本は書きます。ただし、変わること自体が目的ではない、とも念を押しています[5]。
二つ目は 関係を大事にすること です。Plurality の権利の考え方では、個人だけでなく、集団や仕組みも権利を持ちます。たとえば、集まる自由、信じる自由、働く人たちがまとまって交渉する権利などです。権利を決める側も、重なり合う人々のネットワークだと考えます[8]。
社会を「重なる集まり」として描く
本は社会を、人を点で、集団を点を囲む塊で表した図(ハイパーグラフ)で描きます。人は同時にいくつもの塊に入っています。塊の濃さは関係の強さ、塊の中のデータや計算の道具は集団の協働の土台、外から入る矢印はデジタルの世界への入り口を表します[1]。
この図の要素が、本の第 4 部の続く五つの章に対応します。ID と人物性、人の集まり、取引の信頼、財産と契約、そしてアクセスです[1]。
どこが議論になっているか
本は、自分たちの権利の考え方を、二つの考え方と対立させています[9]。
- リバタリアニズム(自由至上主義)。 権利を、ばらばらの個人のもの、とくに私有財産のものとして、固定的に考えます。
- テクノクラシー(技術官僚主義)。 権利を、社会全体の幸福を最大にするうえでのじゃまものと見なします。
本は、この二つを、政治と技術の「一元的」なものの見方の表れだとしています。そのどちらとも違い、権利は変わり続けるもので、個人と集団の関係の中にある、という立場をとります[9]。
Plurality の中での位置
権利 OS は、本の第 4 部の序章(4-0 章)の考え方です。本の章の要約は第 4 部を、インターネットを作った人たちがやり残した課題を引き継ぎ、ID・集まり・取引・契約・アクセスについて、デジタルな開かれた社会の人権となるオープンなしくみを築く部分だと紹介しています[2]。
続く章は、それぞれ次の記事で扱います。
- ID と人物性(4-1 章)— オンラインで「自分が誰か」をどう示すか。関連して 人間であることの証明
- ⿻ 公衆(4-2 章)— 人が集まり、話し合う場をどう守るか
本の第 5 部で扱う協働の道具(協働の技術)は、この土台の上に載るもの、と位置づけられています。
もっと知りたい人へ
- 書籍『Plurality』4-0「権利、オペレーティングシステム、⿻的自由」(日本語・本)— https://www.plurality.net/v/chapters/4-0/jpn/
- 本の各章の要約「Part 4: Freedom」(英語・本の紹介)— https://github.com/pluralitybook/plurality/blob/86158859464aee75633acd854c656928121a7fd8/contents/english/8-blurb.md
- 書籍『Plurality』4-0「Rights, Operating Systems, and ⿻ Freedom」(英語・本、脚注に参考文献)— https://www.plurality.net/v/chapters/4-0/eng/
出典
- 『Plurality』4-0「⿻ freedom」第 1〜2 段落 — https://www.plurality.net/v/chapters/4-0/eng/ [CC0]
- 『Plurality』各章の要約「Part 4: Freedom」— https://github.com/pluralitybook/plurality/blob/86158859464aee75633acd854c656928121a7fd8/contents/english/8-blurb.md [CC0]
- 『Plurality』4-0「⿻ freedom」第 3 段落 — https://www.plurality.net/v/chapters/4-0/eng/ [CC0]
- 『Plurality』4-0「⿻ freedom」第 4 段落 — https://www.plurality.net/v/chapters/4-0/eng/ [CC0]
- 『Plurality』4-0「Dynamism」— https://www.plurality.net/v/chapters/4-0/eng/ [CC0]
- 『Plurality』4-0「⿻ foundations」— https://www.plurality.net/v/chapters/4-0/eng/ [CC0]
- 『Plurality』4-0「Rights as foundation of democracy」— https://www.plurality.net/v/chapters/4-0/eng/ [CC0]
- 『Plurality』4-0「Rights and relationships」— https://www.plurality.net/v/chapters/4-0/eng/ [CC0]
- 『Plurality』4-0「Contrast with Libertarianism and Technocracy」— https://www.plurality.net/v/chapters/4-0/eng/ [CC0]
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