「ノウハウ」という言葉で呼ばれるものには2つの性質の違うものがある。
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「法人」が持っているもの
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特定の社員「個人」が持っているもの
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社員個人が今日の帰りに交通事故で意識不明になった時に、「法人の持ってるノウハウ」は明日以降他の社員が使うことができる。
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そうでないこと、その人がいないとできないことは「個人の持ってるノウハウ」だ。
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「ノウハウを使った複業を認めるか」という話をしている時、無意識に前者のことだけを考えそうだが、実際には両者のノウハウがブレンドされている。
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ブレンド比率がわかるなら複業で発生した利益は按分するのがスジだが、多くのケースではわからないし、明確に定めようとするとそのコストで複業が妨げられる。
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なので会社が複業を推進したいのであれば、インセンティブを与えるという意味も含めて、ざっくり個人側に倒すしかないのではないかと思う。
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具体的に執筆に話を絞ると「著者が交通事故で意識不明になった時に他の社員が引き継いで完成させられるのか?」って考えて、引き継げないならその利益は大部分が「個人のノウハウ」によって生み出されていることになる。
- 文章を紡ぐスキルとかは目に見えにくいが、個人に属していて、法人に移転できない資源だ。
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上記の議論ではノウハウのブレンド比率についてだけフォーカスしたけども、按分比率はノウハウのブレンド比率だけではなく成果を出すために使われた全てのリソースの比率で決まるのがスジ。
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具体的に言えば「時間」は重要なリソースで、例えばもし仮に「個人のノウハウ95%」かつ「会社の業務時間95%」で本を書いた場合は、どう按分するのか悩ましい問題になる。
- 僕は悩ましい問題になるのが面倒だから業務時間外で書くことにしている。
- これは個人が面倒さを避ける最適化をしてるわけなので、会社として全体最適かどうかは微妙。
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「ノウハウ」をどうやって身につけたかを気にする人もいる。
- 会社の仕事(=会社がお金を出した活動)で身につけたものは「会社のノウハウ」である、という考え方。
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これに対する反論
- 「会社がお金を出した活動で身につけたものは会社のノウハウである」という考えは、その人の解釈にすぎません。
- そのノウハウを身につけた「個人」が転職をした場合に何が起こるかによって
- 個人から外して会社に残すことができる
- 個人と不可分で、転職先に行ってしまう
- の2通りの「性質の違うノウハウ」があります。これは観測事実です。
- 個人と不可分なノウハウを「会社がお金を出したのだから会社のノウハウ」と考えるのは自由だけども、そう主張したからと言ってそのノウハウが個人の転職時に会社に残るわけではないので、現実に即していないただの思い込みに過ぎないのでは。
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参考
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かつて終身雇用が一般的だった時代は、転職自体が少なかったので「会社がお金を出した活動で身につけたものは会社のノウハウである、外に出してはいけない」というルールで「ノウハウを会社の中だけに留めて競争優位を保つ」って戦略が通用するケースもありました。
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ですが状況は大きく変わって、この戦略はもう通用しなくなり、社外からどうやってノウハウを得るかが重要になった、これがヘンリー・チェスブロウが著書「オープンイノベーション」で提唱したことです。
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「複業」は「企業の境界をまたいだ働き方を認めることで、社外とのパイプを太くしよう」という戦略であって、オープンイノベーションと近い方向性の戦略だと思います。