クッキークリッカー的な拡大再生産のゲームにおいて、よく見られるデザインパターン。 自明な最適解をなくすデザインの1つ。 収穫逓減する複数の選択肢

例えば「コインを消費して、機能Xのレベルアップをすると、単位時間当たりのコイン獲得量が増える」というような拡大再生産のゲームデザインにおいて、「コイン獲得量」は固定のまま「レベルアップに必要なコイン消費量」が増えていくようにする。投資金額あたりの収穫は逓減する。レベルアップをする対象が機能X,Y,Zと複数ある場合、特定のものばかりレベルアップをするとその選択肢の収穫が逓減するのでバランスよくレベルアップする必要が出てくるが、「よいバランス」が自明ではない。

よいバランスが自明でないのは、プレイヤーが計算をしないという認知の限界によるもの。ちゃんと計算するなら「投資額あたりの収穫増加量(ROI)」が最大である選択肢を取ればよいだけなので自明な最適解がある。10の投資で収穫が1改善するものと、100の投資で収穫が11改善するものがあれば後者の方がROIが高い。

これをさらに混乱させるために、収穫タイミングをずらす手がよく使われる。10の投資で2単位時間ごとに2の収穫が改善する選択肢と、10の投資で1単位時間ごとに1の収穫が改善する選択肢では、後者の方が好ましい。収穫を利用可能になるタイミングが速いため、その収穫をより早く再投資に回すことができ、複利の効果が発生するから。この効果を計算するのが割引現在価値だが、クッキークリッカー的ゲームを遊ぶ時にそこまで計算する人は存在するのだろうか…。

さらに「何分に1回収穫が発生する、その収穫の量を投資によって増加させられる」というケースでは、最適行動に収穫発生タイミングが影響してくる。「10分ごとの収穫が10増える権利A」は長期的にならすと「1分あたりの収穫を1増やす権利」になる。しかしその収穫タイミングが1分後に迫っている場合、今それに投資をすることは短期的には1分後の収穫を10増やすことになる。同じ金額で「10分ごとの収穫が20増える権利B」が買えるとしても、それの収穫タイミングが2分後なら、まず権利Aを買って、1分後に得られる収穫をまって権利Bを買う方が得である。

しかも、投資は非線形。つまり「10払えば権利Aが手に入る」という時、9払っても90%の権利は手に入らない。今目の前にある投資選択肢の中から最も有用なものを選ぶことで、将来現れる選択肢に金額が不足してはいけない。

あれあれ、いろいろ考えてみると単純なクッキークリッカーでも戦略は自明じゃないな。


2,3,5単位時間(以下、秒)ごとに1の資源を発生させる装置A,B,Cがある。それらの装置の獲得コストは1で、追加費用を支払うことで発生量を+1できる。必要な追加費用は1,2,3,5,8,13,…とフィボナッチで増えていく。つまり、Aの獲得に1払い、その後6追加で払うとAは2秒ごとに4の収穫を発生させる。時刻0で、プレイヤーは資源を1持っている。

問1: 時刻100での所有資源量を最大にするようなプレイは何か 問2: 資源量100の達成時刻が最も早くなるようなプレイは何か 追加問題: 問1と問2に何か違いがあるか?また100を一般のNとした時に何か興味深いことは言えるか?

時刻1での所有資源量を最大にするプレイは「何もしない」 時刻2での所有資源量を最大にするプレイは「何もしない」または「時刻0でAを買って時刻2で1を受け取る」の2つ。それ以外の選択では0なので最大ではない。後者を簡潔に表現するために0:Aとする。 時刻3での所有資源最大は「何もしない」、0:A0:Bの3つが1で最大。 時刻4での資源最大は0:Aが2で最大。

‘AAAA_A____’ ‘AAAA______’ t=0、1払ってLv1、1を得る。t=1、1払ってLv2、2を得る。t=2、2払ってLv3、3を得る。t=3、3払ってLv4、4を得る。1回休み、4を得る、8になる。次のターンで5払ってLv5にした場合、それを回収するのに5ターン掛かる、なので投資はギリギリ回収されるので投資してもしなくても同じ。