「公表されたものは引用することができる」と著作権法32条に定められているが、著作権者でない人によって勝手に公開されてしまった場合はどうなるか?

著作権法による公表の定義が「著作物は、発行され、又は者Xによつて上演、演奏、上映、公衆送信、口述若しくは展示の方法で公衆に提示された場合…において、公表されたものとする。」で、者Xとは「権利を有する者、若しくはその許諾…を得た者、若しくは…」なので、権利を有しない者によって勝手に公開されたものは公表されていない。

よって公表されたものは引用できるの要件も満たさない。

第四条 著作物は、発行され、又は第二十二条から第二十五条までに規定する権利を有する者若しくはその許諾(第六十三条第一項の規定による利用の許諾をいう。)を得た者若しくは第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその公衆送信許諾(第八十条第三項の規定による公衆送信の許諾をいう。次項、第三十七条第三項ただし書及び第三十七条の二ただし書において同じ。)を得た者によつて上演、演奏、上映、公衆送信、口述若しくは展示の方法で公衆に提示された場合(建築の著作物にあつては、第二十一条に規定する権利を有する者又はその許諾(第六十三条第一項の規定による利用の許諾をいう。)を得た者によつて建設された場合を含む。)において、公表されたものとする。

もっと具体的な「職務上作成したプログラムのソースコードを雇用主の許可なく勝手に公開した人がいた」という事例について

職務上作成したプログラムの著作者は、事前の決め事がない限り、書いた本人ではなく法人である(職務著作)

なので、職務上書いたプログラムを書いた本人Aが雇用者の許可を得ずに公開したようなケースで、これはAが著作者でなく許諾も受けてないため著作権法上の「公表」ではなく、なので第三者が引用して言及することも許されていない。

第十五条 2 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

反響

  • Q: ニュース記事に流出したソースコードのファイル名一覧画面のスクリーンショットが使われていた、これは著作権侵害では?

    • A: このケースは「時事の事件の報道のための利用(著作権法第41条)」でOKかと。
    • (時事の事件の報道のための利用)

    • 第四十一条 写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる。

  • Q: 著作権を侵害して公開されたソースコードであることを知らずに引用した場合「公開されたものに対する引用」なのでは?

    • A: 民法でNGなのと刑法でOKなのを区別しよう
    • 民法上は、不法行為である。だから本来の著作権者は引用している人に対して差し止めや損害賠償の請求ができる。民法709条 著作権法112条
    • (不法行為による損害賠償)

    • 第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

    • (差止請求権)

    • 第百十二条 著作者…は、その著作者人格権、著作権、…を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。…

    • 刑法上は、罪を犯す意思がない行為なので、罰されない。刑法38条
    • 故意

    • 第三十八条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。(以下略)

  • Q: 孫請け企業が雑な契約をした場合、職務著作になってない可能性があるのでは?

    • A: 可能性がゼロとは言えない。
    • 具体的には例えば個人の開発者Xが孫請け企業に、雇用関係なく指示も受けずにサンプルのソースコードを提供して、孫請け企業が勝手に上流に納品した場合、職務著作の要件を満たさないので、開発者Xが著作者であり、当然自由に公開できる。
    • だけど今回のケースは発注企業名がソースコードに入ってて発覚したんだよね。職務著作にならないケースは考えにくくない?
    • 「法務がちゃんとしてたら〜」という意見もあるが、まあしばしばまともでない会社があるのも事実。
    • なお、雇用関係になかったとしても「業務に従事していた」と判断することはあり得る、という、最高裁の判断がある
      • 最高裁は、法人等と雇用関係にある者が「法人等の業務に従事する者」に当たることは明らかであるとしつつ、雇用関係の存否が争われた場合には、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して判断すべきであるとしました(最判平成15年4月11日最高裁HP(アール・ビー・ジー事件))

    • なので、もし今回の件に関してここが争点になったら裁判で争わないと結論が出ないのかも。